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『ファイアパンチ』 第6巻 藤本タツキ 【日刊マンガガイド】

2017/09/10


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ファイアパンチ』



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『ファイアパンチ』 第6巻
藤本タツキ 集英社 ¥400+税
(2017年8月4日発売)


再生能力を持つ、アグニ。
村と妹を、消えない炎で燃やし尽くしたドマに復讐をするべく、燃えながら再生する魔人となった。
……というのが序盤。ハードな復讐譚として描かれていた。

復讐の最中、数多くの人々を殺してしまうアグニ。
悔いあらためたドマに出会って、彼を許すと決めたものの、気がつくとドマと子どもたちすべてを燃やし尽くしていた。
……というのが中盤。彼を映画の主人公にしようとするトガタ、世界を冬にしている元凶の氷の魔女、妹のルナにそっくりなユダなど、たくさんの思惑を持ったキャラの登場で、アグニは自分の行動に疑問を抱き始める。

そして第6巻からは、新章が始まる。
アグニの、消えないはずの火が消えた。
氷の魔女がユダを犠牲につくった“木”と戦ううちに、彼は普通の人間の姿になったのだ。
そしてアグニは、記憶をすっかり失い幼児退行したユダに、自分がだれかと問われ、とっさに自分の妹の「ルナ」だと偽る。

自分が燃えていた時に、無数の人間を殺してきたことから目を背け、ユダをルナだと思いこんで「兄さん」を演じることで、心の平安をはかろうと迷走。
あげくの果てに、アグニのことを知らない人から「ファイアパンチを殺して…!」といわれる始末。
彼の身体の火が消えたのは、現実に気づいて怒りが消えてしまったのを表すかのようだ。

身体が燃えている間は力んでいた設定のため、火が消えると不自然なくらいにムキムキ。
全裸のユダをルナと見立てて、2人でキャッキャしている様子は、ほとんどギャグだ。
今までも、冗談めかしたありえないシーンづくりがこの作品のウリだったが、第6巻は身体が燃えていないぶん、アグニとユダの間抜け感がものすごい。
そして、本人が自分の間抜けさに気づいた時の、嘘に逃避している滑稽な自分に気づいた時の、絶望感が尋常じゃない。

アグニの苦しみがあふれるこの巻だが、よく見ると狂っているのはほかの人間たちのほうだったりする。
奪い、犯し、殺すのが当たり前の世界。
人を殺した罪の意識をずっと背負い続け、苦悩している人間は、火の消えたアグニだけだ。
彼はひとりだれにも理解されぬまま、罪悪感の煉獄巡りを始めてしまった。



<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」

単行本情報

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