『スピリットサークル』第4巻
水上悟志 少年画報社 \571+税
(2014年11月29日発売)
主人公・桶屋風太は中学2年生の男子。ごく平凡な中学生活を送っていたが、額に大きな傷跡を持つ美少女・石神鉱子が転校してきてから、風太の人生は一変する。
鉱子は掌から輪環状の武器「スピリットサークル」を出現させ、風太を殴りつけた。すると風太の意識は前世の記憶「過去生」とリンクし、かつて生きた人生を追体験することになる。
過去生での一生を終えて再び現世の桶屋風太に意識が戻ると、鉱子から「あんたはあと7回死んでもらうわよ」と告げられるのであった。
風太と鉱子は、いつの時代の前世でも、憎み合い、殺し合ってきた仲だ。過去生を体験して輪廻するたびに、2人はあらたな禍根を生み出していく。
これまで江戸時代や中世ヨーロッパなどを舞台としてきたが、4巻で風太が転生する先は、なんと34世紀の未来。未来が前世……というと不思議な感覚だが、これは本作に限った話ではなく、水上作品に共通する独特な時間観念といえるだろう。
34世紀の世界では、ラファル(風太の過去生)とラピス(鉱子の過去生)は、電気信号で夢を見させられている脳(=亜生者)の管理センターでともに働くことになる。そしてある出来事を契機に、ふたりは“大人としての責務”を担うことになっていく。
少年マンガでは成長がテーマとなるが、「大人を倒す」ことが端的に「少年の成長」をほのめかすため、敵は主人公より大柄か大人の姿で描かれることが多い。
しかし、バトルがインフレ化して大人を倒すのが当然のようになってくると、そこから大人に対するリスペクトは欠落する。結果、少年が成長すると、自分が見下げる者(=大人)になる、というパラドックスに陥ってしまう。
また、「もっとも身近な大人」を「乗り越えるべき壁」として描こうとするあまり、父親や肉親をレジェンドな存在に設定し、過度な血統主義に陥いるケースも多い。このように、少年マンガにおいて大人の姿を描くのは、なかなかに難しいことだ。
ところが、本作『スピリットサークル』では、大人がかっこよく描かれている。これも水上マンガの特徴といえるだろう。
飄々としていて、押しつけがましくなく、少し頑固で、そして趣味人で、全体的に余裕がある。それこそ「子供が憧れる存在」として、大人が描かれるのだ。
過去生で何度も「大人になる」経験をした14歳の風太は、どのような大人に成長するのか。そして、風太と鉱子は因果の鎖を断ち切ることができるのか。
読みやすくテンポよくストーリーは展開するが、過去生同士が影響し合う重層的な構造は極めて密度が濃い。
まだ4巻。生々流転の物語に乗るには、ちょうどいいタイミングかもしれない。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama