『ユキは地獄に堕ちるのか』第1巻
藤原ヒロ 白泉社 \429+税
(2014年11月5日発売)
舞台は京都の山奥。
民宿の娘ユキをはじめ、田舎の村で育った幼なじみの少年少女6人には、過酷な使命が待ち受けていた。死者の魂が輪廻転生の道から外れた魔物、外道との戦いである。
800年の昔、6人の僧侶が凶悪な外道「天狗」を封じることに成功。封印が弱まる100年毎に天狗を迎え討つ“宿命の子”が6人現れるようになった。
ユキたちこそが現代の“宿命の子”。覚醒の時がやってきたのだ。
6人の血筋は六道の名をもち「天道」「地獄道」「修羅道」「餓鬼道」「畜生道」「人間道」を一家系ずつ司る。戦士・貪欲さを帯びた子ども・獣……など各々が自分の力をあらわす姿になり、外道と戦っていく。
しかし、なぜかユキだけ覚醒が中途半端な状態が続く。6人の力がそろわなければ天狗を封じることは叶わない。はたして6人の戦いの行方やいかに。
学園ラブコメ少女マンガ『会長はメイド様!』がヒットした藤原ヒロの長編2作目で、伝奇系アクションへ思いきった舵取りをしている。地獄モードで鬼っ娘に変貌したユキがドS女王キャラになるのが見どころだ。
いつも彼女をふりまわす超俺様キャラな幼なじみの少年が、ねじふせられ悲鳴を上げる関係逆転シーンがたまらない。あ、ありがとうございます!
本作の題名は「ユキは地獄道の能力を扱えるか」という展開を示すが、別の意味もある。
本来、仏教でいう六道の世界は、人間が陥る心の状態を表現したものとされる。ユキは容姿や能力に優れた幼なじみたちの間でいつも気持ちがぐらついている。嫉妬、コンプレックス、怒り。ふだん前向きで、おどけることが多いユキだが、裏には暗い心理も蠢いている。それが一線を越えると「地獄道」が現れる。
つまり題名は、ユキが心の暗黒面に呑まれてしまうのか、というメンタルな意味ももつわけだ。
本作はただ即物的にオカルトバトルを描くだけではない。誰にでも思春期にありうる葛藤を描いた、心のドラマなのである。
なお、単行本は1・2巻が同時発売されており、ユキの正式な覚醒まで一気に読める。
まだまだ序盤、これから訪れる壮大な展開が楽しみだ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。プリキュアはSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7