『ニセコイ』第1巻
古味直志 集英社 \400+税
4月1日、すなわちエイプリルフール。日本語で「四月馬鹿」とも書くこの日は、「ウソをついて人をからかってもいい日」とされる。
そもそも、このならわしがいつどこで始まったかは、はっきりとしない。
16世紀フランスのシャルル9世が新暦を導入したさい、従来の旧暦のほうがいいと考えた民衆が4月1日まで続く春祭りの時期に、ウソの新年祝いをした……という説が有名だが、ほかにもインド仏教における修行のスケジュールに由来するとか、古代ローマで道化師を身分の高い者と入れ替えて遊んだ無礼講に由来するとか、5つ6つほど起源を語る逸話が存在する。
そういう説明自体がエイプリルフールに語られたウソなんじゃ……? と思うと、どれもあまり真に受けすぎないほうがよさそうではある。
現代社会では、インターネットをはじめ情報インフラが極度に普及している。そこでは「ネタ」の名のもとに四六時中だれかがどこかでウソをついている。
しかし、それでも……いや、よけいに? ウソのつきかたにセンスが問われるエイプリフルールの存在感は、ひとつ頭抜けたものである。
さて今回は、ウソが物語を動かす原動力になっている『ニセコイ』に注目してみたい。
週刊少年ジャンプで連載中のラブコメ漫画であり、今月からアニメ版第2シーズンが始まる大人気作である(エイプリルフールに近い4月上旬に放送開始というのが、意味深でよいですね)。
日本極道の跡取り息子・一条楽と、欧米ギャングのボスの娘・桐崎千棘。この少年少女が、対立する両家の争いを止めるため恋人のふりをするというのがストーリーの大枠だ。
組織の構成員たちや学校の友達の前で「ハニー」「ダーリン」といちゃいちゃしてみせながら、裏ではそりが合わずケンカばかり……という虚実のギャップが、様々な事件やドラマを生む作りになっている。
ただし、本作の真の見ごたえは、目先のウソ・ホントから二重三重にひねりを加えていくところにある。
ニセモノの恋人を続けるうち、楽も千棘もお互いの魅力が見えてきて憎からず思うようになっていく。すると、2人きりの時に「本当はあんたなんか嫌いだ」と反目するほうが今度はウソになり、演技のはずだった「好き」が真実に近づくのだ。
家の事情で周囲の人々についているウソ、そして2人の間で意地っ張りからくるお互いへのウソ、さらに楽くんはほかに好きな女の子がいるため、自分の気持ちが揺れ動くのを認めたくないという、自分自身につくウソまで入ってくる。
ウソとホントがぐるぐる巡って入れ子細工になる様子はシェイクスピアの恋愛喜劇のようで、実際、劇中の文化祭で『ロミオとジュリエット』が演じられているのを見るに、モチーフはそこからきているのだろう。
エイプリルフールというタイミングでこの漫画を読んで、ウソをつくという行為の奥深さについて感じ入ってみるのも、いい体験になりそうだ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7