『双葉文庫名作シリーズ 新生活読本 魔術師』
西岸良平 双葉社 \600+税
1978年7月25日は、イギリス人女性ルイーズ・ブラウンの誕生日である。
ルイーズは世界初の「試験管ベビー」であり、彼女の誕生は世界中に報じられた。
試験管ベビーというと、古い時代のSF映画やマンガでは、巨大な試験管のなかで培養液に浸された胎児が描かれたものだ。しかし、実際は採取された精子と卵子を試験管で体外受精し、受精卵を母胎に戻して出産することになる。
とはいえ、「試験管ベビー」という名称から、どうも「巨大な試験管~」の印象を抱くこともあったようだ。
その印象をうまく利用した作品が、西岸良平の短編集『新生活読本 魔術師』の「第八話 謎の試験管ベビー」だ。主人公の本田健は、なぜか試験管やフラスコに惹かれてしまい、趣味で収集している。
あるとき健はテレビで「イギリスで試験管ベビー第二号が誕生した」とのニュースを見るのだが、自分の試験管好きは、もしや自分の出自に関係あるのでは、と自身のルーツを探っていくことに。
著者の西岸良平は、『三丁目の夕日』で広く親しまれているように、ほのぼのとした木訥な味わいの絵柄が持ち味。
そのテイストでSFを描いた本シリーズは、小学生向けのジュニアSF&ミステリーシリーズのような雰囲気があり、SF的なセンス・オブ・ワンダーとノスタルジーを同時に味わうことができる希有な作品だ。
双葉文庫名作シリーズ(双葉社)版では、「謎の試験管ベビー」が収められている『新生活読本』全10話と、『SFシリーズ』全5話の合計15本の読切短編が楽しめる。
西岸テイストのSFを心ゆくまで堪能しよう。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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