『地獄でメスがひかる なかよし60周年記念版』
高階良子 講談社 \580+税
(2015年7月3日発売)
心優しくも醜い容姿と体型のために、家族からも疎まれてきた、ひろみ。
自分の境遇と見た目に耐えきれず、ついには海に身を投げて自殺を図るひろみだったが、そこを若き病院長で天才医師である巌俊明(いわお・としあき)に助け出される。
他人から忌み嫌われてきた彼女に、優しく接する巌。その巌は、ひろみを積年の願いであった研究の実験台にしようとしていた……。
夏といえば、高階良子。
60~70年代生まれのマンガファンには、そんなイメージを持つ人も多いかもしれない。
毎年、暑い時期となれば「なかよし」誌上に掲載されていた、高階良子のオカルトやミステリー作品。
冒頭にあらましを記した『地獄でメスが光る』も、1972年の7月号から5回にわたって掲載されたサスペンスだ。その『地獄でメスがひかる』が、“なかよし60周年記版”という形で、オリジナル単行本の装丁と構成のまま発売された。高階ファン、作品ファンならずとも、この表紙だけでゾクゾクしてしまうだろう。
本作のテーマと言えるのが、美。
ひろみは巌によって全身整形を施されて、モデルデビューを果たすまでの美女に生まれ変わるが、病院の看護師であるユキから、ある真実を告げられることになる。
巌はひろみに全身整形を施していたわけではなく、じつは彼女の脳を取り出して……。
おそらく、子ども時代に本作を読んだ読者は、その設定と描写に恐怖と、それと同時に魅力も感じたはずだ。
しかし、改めて読んでグッと迫ってくるのは、真実が明かされて、破滅に向かっていく巌とひろみの姿だ。その先には悲劇が待つ。
表題作とあわせて収録されている「鬼あざみ」は不良少女をめぐる物語ながら、こちらも悲劇的な物語だ。その顛末とあっけない幕切れで言えば、ある意味、怖さや衝撃は表題作以上かもしれない。
そしてやるせなさやもの悲しさは、『地獄でメスがひかる』にも「鬼あざみ」にも相通じるところ。そんなやるせなさや物悲しさも、なにより少女たちを魅了し続けてきた著者の大きな魅力だろう。
前向きで温かな作品が現在の少女マンガの主流を占めるなか、この冷徹さと湿り気。
時を越え、高階良子は今の読者の心もしびれさせるはずだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。