『ちちこぐさ』第1巻
田川ミ マッグガーデン \571+税
8月9日は語呂合わせ(ヤ・ク)で薬草の日。
沖縄県の保健食品開発協同組合が制定したそうだ。病気になった際に身近な植物を摂取することは、かなり古くから人類が行ってきた。とはいえ、どの植物がどの病気(ケガ)に効くのかは実際に試してみないとわからない。
東洋でも西洋でも先人たちがコツコツと薬用植物の効能を書物に残していったが、情報交換をしていたわけでもないのに、後年それらをひもといたところ、その記述は非常に似かよっていたというから驚かされる。
田川ミの初コミックスとなった『ちちこぐさ』は、旅の薬売りをする父子の物語。
もともとは父親のトラ吉だけで全国を売り歩いていたが、最愛の妻・シオリを亡くし、今は幼い息子・シロウを連れて仕事をしているのだ。
シオリの死後、2年間も実姉に世話を任せっぱなしだったため、シロウと一緒の時間をロクに持てなかったトラ吉は、ある日突発的に息子を連れだす。おかげで姉はカンカンだ。
そんな2人が薬売行脚を通じて、少しずつ絆を深めていく様が描かれる。時代背景ははっきり明記されていないが、洋装の人物も登場するので明治初頭あたりかな?
2人は旅先でいろいろな病気を持つ人と出会い、さまざまな薬を処方する。
シロウは泣き虫で人見知りだが、父親譲りの薬草知識を持ち、大人を驚かすことも。
ヨモギ(ぜんぞく、止血など)やツワブキ(打撲、切り傷など)といった身近な植物も活躍しており、読了後は道に咲く名もなき草花が気になることうけあいだ。
ちなみにタイトルになっている「父子草」は実際に存在する植物。
そこらじゅうに生えている多年草だが、地味すぎてあまり知られていない。いちおう薬草でもあり、花言葉は「父の愛情」(第1巻:おまけページ参照)。
シロウが父子草を握りしめてトラ吉に駆け寄るシーンは、ジーンと胸が熱くなった。
<文・奈良崎コロスケ>
マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。話題の映画『ピクセル』の劇場用パンフレットに参加することになり、80年代カルチャーを復習中。