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『ゴールデンカムイ』第4巻 野田サトル 【日刊マンガガイド】

2015/09/17


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー! 今回紹介するのは『ゴールデンカムイ』。

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『ゴールデンカムイ』第4巻
野田サトル 集英社 ¥514+税
(2015年8月19日発売)


時代は明治晩期。広大な北海道に隠された莫大な金塊を探し求める日露戦争帰りで「不死身の杉元」の異名を持つ杉元佐一とアイヌの少女アシパ。
その競争相手は、陸軍第7師団の鶴見中尉と70代になろうかという元新撰組副長の土方歳三である。鶴見中尉は、日露戦争の奉天会戦で負傷した傷を隠す固定具が特徴的だ(ちなみに、第4巻の表紙を飾っているのは鶴見中尉である)。
土方歳三は、函館戦争で死ななかったという設定で、戦争後網走刑務所に収監されていたが、死刑囚たちを率いて脱獄していた。
埋蔵金のありかを示す刺青の暗号図をめぐっての三つ巴が火蓋を切る。

本書の読みどころは三つ巴のバトルなのだが、そうした戦いの合間に織りこまれたアイヌ文化の紹介が興味を引く。作中での佐一とアシパの主食は野性の動物である。その食事描写は、じつにうまそうでグルメマンガも顔負けである。
本書では、こうした食事の場面が注目されているが、獲物を捕らえるための仕掛けや、その背景にあるアイヌの思想も作中できちんと語られているのがうれしい。読者からすれば、あまり知識のないアイヌ文化の紹介は知的好奇心を心地よく刺激してくれるのだ。

ところで、コミックスのカバーの折り返しには、各巻共通で「カント オロワ ヤ サ ノ アランケ シネ カ イサ」と記されている。
これは「天から役目なしに降ろされた物はひとつもない」という意味のアイヌ語である。リス、ウサギ、カジカ、カワウソ、エゾジカ、オオワシ、鮭、馬、ヒグマ――といった多彩な食材を味わう佐一たちを見ると、その言葉が実感として伝わってくる。

だが、自然は恩恵を与えるばかりではなく厳しい側面も見せる。
ヒグマをはじめとする野生動物の襲撃や冷え切った川への転落などで、佐一らは生命の危機にさらされる。そうした局面でのサバイバル術も、じつに見事だ。

作者の野田サトルは北海道北広島市出身。
2003年「恭子さんの凶という今日」でデビュー。2006年「ゴーリーは前しか向かない」で第54回ちばてつや賞ヤング部門大賞を受賞した。
経歴を調べると国友やすゆきのもとでのアシスタントの経験があるのだが、そう思ってみるとキャラクターの描きぶりに師匠の影響が感じられる。

冒頭で「三つ巴」と書いたが、これまでは杉元・アシパ(さらに言えば、「脱獄王」の異名を取る白石由竹なる人物が杉元の仲間に加わっている)対第7師団鶴見の戦いが、物語の中心になっていた。
だが、第4巻では鳴りを潜めていた土方歳三が動き出す。銀行を襲い、かつての愛刀・和泉守兼定を手にする。

いよいよ三者がぶつかりあう機運がたかまってきた。次巻が待ち遠しいところである。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。また「ミステリマガジン」9月号にコミック評が掲載されています。

単行本情報

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