365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
2月11日は仁丹の日。本日読むべきマンガは……。
『講談社漫画文庫 刑務所の中』
花輪和一 講談社 ¥760+税
2月11日は仁丹の日。
将軍マークのパッケージでおなじみの仁丹の老舗、森下仁丹が1893年(明治26年)の創業日と、1905年(明治38年)の「仁丹」の発売日から制定した。
ひょっとして最近の若い世代は仁丹を知らない人もいるかも?
仁丹はハッカなどの生薬を配合した小さな丸薬サイズの口中清涼剤。つまりはフリスクの元祖みたいなものだ。
銀箔でコーティングされているのが、なんとも効果ありそうというか神秘的にさえ見える。もちろん今も現役で、梅仁丹などは駅の売店などでもちゃんと売っている。
さて、意外な仁丹の利用法が載っているのが、花輪和一が服役体験を緻密に綴った『刑務所の中』である。
著者はモデルガン好きだったのだが、たまたま友人から本物の銃を預かっていたかどで逮捕され、なんと3年もの歳月をムショで過ごすことになってしまうのだ。
しかし、さすがは漫画家である。獄中で書きためた日記、イラストなどをもとに描かれた本作は発表されるや大きな反響を呼ぶ。
克明に描かれた生活空間、入浴、私物購入のルール等々、すべてが興味深い。
そして、詳細に紹介されるのは3食のメニュー。
檻のなかでは甘いものがめったに食べられない。大のオトナたちが小倉小豆とマーガリンをパンにはさんだのを涙を流さんばかりにむさぼり食う姿はなんとも印象的だ。
さて、制限ばかりのムショのなかで、喫煙者はさらに苦しい思いをすることになる。
そこで、かつて1日40本吸っていた主人公が考え出した秘策は、新聞紙を煙草の長さに丸め、消しゴムをライターに見立てて煙草を吸っている気分にひたるというものだ。
長年の喫煙経験があれば、この動作だけで脳がだまされる!? さらに仁丹を口に含めばリアルにメンソール煙草っぽくなるとか。
これぞ涙ぐましい生活の知恵。森下仁丹の方にもぜひ読んでほしい名著である。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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