日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ローカル女子の遠吠え』
『ローカル女子の遠吠え』第1巻
瀬戸口みづき 芳文社 ¥619+税
(2016年5月7日発売)
アラサーにして東京から静岡県の実家に戻った有野りん子を中心とした、ご当地ネタ4コマ。
横断歩道の青信号のメロディが唱歌「ふじの山」だとか、お茶係がいたとか、山梨県民との因縁などなどがふんだんに織りこまれ、読めば「しぞーか」の特色がよくわかる。
ただ、りん子のスタンスは「あふれる地元愛」でもなく、流行(?)の「地方ディス」とも少し違う。
おおむね静岡の県民性はのんきなため、委員長タイプで向上心も高いりん子は自分をもてあまし気味だ。おまけに上の年齢の人は「結婚して一人前」との昭和な価値観を疑わない。
東京に近くアクセスもよい静岡県だからこそ、このギャップが際立つ。県内で満足できる人々とはあいいれず、ブラック企業から生還した友人の蜂須賀が得ている安心感(トラウマも深いが)や、左遷にあったが静岡ライフを楽しむ同僚・雲春のような楽観もない。
東京の多すぎる人の群れからこぼれ、デザイナーの道を諦めて敗北感をぬぐえないりん子は、遺伝子レベルで刻まれた郷土愛と、一度は挑戦した都民ライフへの未練とのはざまで揺れる、微妙なお年頃である。
そこから生まれる温度差の切り取り方は鋭くて笑えるし、りん子の度の過ぎたマジメぶりとごくたまに見せるデレな面はかわいらしい。スナックのママであるりん子母の、お色気をしこもうとしたり、隙あらば娘の「属性」を活かして新業態を始めようとしたり、とやっかいな親心から逃げまわるのも、はたから見るとなごむ。
ちょっとムカつくタイプの女子・桐島の見えすいた手口に、雲春が完全に無反応なのは溜飲が下がる思いだ。
しかし、恋愛よりも、モデルを挫折し同じくUターンした美女・水馬との友情の方が進展しそうなのも、ローカル女子あるあるなのか?
<文・和智永 妙>
『このマンガがすごい!』本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。