365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
10月20日ははっかない恋デー。本日読むべきマンガは……。
『積極 -愛のうた-』
谷川史子 集英社 ¥400+税
いつの間にか、本格的な秋である。
アツアツのおでんとキュッと冷えた日本酒があれば何もいらない。何もいらないけど、本日10月20日は「はっかない恋デー」なので、そのことだけは知っておいてほしくござ候。
昭和初期にはハッカの名産地だった北海道北見市だが、現在では天然のハッカがない。そこで「ハッカがない」と「はかない」をかけて(!)「はっかない恋デー」を制定。
はかない恋、はっかない恋、ハッカない恋……。
10月は、ハッカの収穫と精油の製造時期であり、なおかつ恋の神様のいない神無月。だから10月20日(=はつか)は「はっかない恋デー」である。……ふーん。
はかない恋、ときましたね。マンガ界の「はかない恋」担当大臣といえば、谷川史子だろう。イチオシは『積極―愛のうた―』である。
大学4年生の美幹(みき)は、ゼミの鳥野教授が気になっている。しかし、今年定年退職を迎える教授は、「死んだ妻が悲しむから」と、美幹とまともに目を合わせることもない。
美幹にしてみれば、そういういちずさや奥ゆかしさも含めてのストライク。ゼミの生徒として、また助手として、教授と過ごす時間を大切にしていた。
それでも、美幹の恋人・荒川くんは、美幹の思いが自分に向いていないことに気づいてしまう。
荒川くんは、同棲している部屋の鍵を美幹に返して別れを告げる。最後まで美幹のことを好きだったのはたぶん荒川くんで、だからこそ彼は、これまでの時間をキレイな思い出にできるよう、自分から恋を終わらせた。
そして美幹は、教授も失ってしまう。
美幹と教授の間には、「好きです」「愛しています」といった言葉もなく、人に語れる思い出も残らなかった。
おそらく別れを覚悟していたであろう教授は、美幹に「青林檎」を渡した。美幹は教授がいなくなってから、青林檎に託された思いに気づく。
人は、胸のうちに大事にとっておきたくなるせつない思いを「恋」と呼ぶ。
淡い想いをかたちにするすべはなくても、あらがえない感情の波にさらされたら、それは恋だ。
何かが始まることも終わることもないはかない恋をしている時、美幹と教授のように、人は不器用になる。
<文・片山幸子>
編集者。福岡県生まれ。マンガは、読むのも、記事を書くのも、とっても楽しいです。