日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『青猫について』
『青猫について』 第1巻
小原愼司 小学館 ¥630+税
(2016年10月12日発売)
「やわらかスピリッツ」でWEB連載中の『青猫について』初の単行本が発売中である。
『二十面相の娘』、『地球戦争』の壮大なジュヴナイルで読者を魅了した小原愼司先生の新作であり、その内容は凄絶の一語がふさわしい復讐の物語だ。
舞台は大東亜戦争終結まもなく、街々が焼け野原となり、人心は荒れはてた日本。
ここに、闇市周辺の無法地帯を震えあがらせるひとりの殺し屋がいた。
ひと呼んで、「人斬り青猫」。
どこまでも涼しげで端整な面持ちをした、年若い美少女である。
さめざめとした黒ずくめのセーラー服姿から、あでやかにのびる手足は猫のように素早く動き、すらりと抜いた日本刀をふるっては荒くれのヤクザどもを次から次へと斬り殺す。
血潮にまみれ、臓物をふみこえて、顔色ひとつ変えずに新たな標的を求める「青猫」。
そして、彼女が仇敵と追い求める悪党は、警戒して“猫殺し”の刺客をさしむける。
その名は「カラス」。獣も人も等しく狩り殺す凄腕の女だ。
はたして両者の邂逅の行方やいかに……!
とにかく、ヒロイン・青猫のクールな造形が作品を引っぱる様子が頼もしい活劇である。
どこをとっても暴力と死体のオンパレードだが、同時にそれは少女のひたむきで純度の高い衝動にくべる燃料として昇華されるため、人の世のケガレと清らかさがまったく矛盾せず、あわせて読者に伝わってくる。青猫のね、目がきれいなんですよ、目が。
食うやくわずの戦後民衆が雑然とひしめく闇市で、青猫と相棒の少女がうら若い身でしたたかに暮らしぬく生活描写も、その清濁あわせた印象にひと役かっている。
これだけ殺伐を極めているのに(だからこそか?)、読んでいると突き抜けていっそすがすがしい心持ちになる人も少なくないだろう。
第1巻では、ドラッグで男を支配する女と子供たちが住む町の探索、仇のひとりを探しあてるエピソード、そして上述の殺し屋「カラス」とのニアミスを描き、最後にそこまで断片的に語られてきた「火男(ひょっとこ)のイレズミの男たち」が、ある家族にしでかした無惨な仕打ちの結果、ひとりの少女が初めてその手を血に汚して“青猫”となる経緯を明かす過去話が収録。
まず本巻で青猫というキャラクター自体のセットアップをおこなって次巻に続く、映画なら「エピソード1」とか「ビギンズ」とかつく類の構成になっている。
最近、本作を形容してマンガというより「劇画」だと評する声を見かけた。
たしかに、絵柄の問題ではなく、作品が示す世界観・人間観を言い表すとしたら、その概念をもってくるのが最適かもしれない。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7