365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
3月20日は地下鉄サリン事件が起きた日。本日読むべきマンガは……。
『MATSUMOTO』
LF・ボレ(作) フィリップ・ニクルー(画)
原正人(訳) Graffica Novels ¥2,200+税
1995年3月20日、東京の地下鉄で神経ガスのサリンが散布された。
死者13人、負傷者は6000人以上にのぼる未曾有のテロ事件が引き起こされた。一般市民を標的とした大都市での無差別テロで化学兵器が使用された初めてのケースである。
事件から2日後、警視庁はオウム真理教の教団施設に対して強制捜査を行い、徐々に事件の全容が明らかにされていった。
きょう、3月20日は「地下鉄サリン事件が起きた日」である。
この事件にさきだつ前年の1994年6月27日、長野県松本市でサリンを使用したテロ事件が起きている。
このオウム真理教による2つのサリン事件を題材にしたのが、フランスのバンドデシネ『MATSUMOTO』だ。2015年にフランスで発行され、今年2月に日本でも翻訳版が刊行された。
本作は実在の事件や人物をモデルにしているが、フィクションである。
オウム真理教へと出家したものの、松本智津夫死刑囚(麻原彰晃)に対する疑問を感じている信者カムイ(架空のキャラクター)の目を通じて、教団のグロテスクさと洗脳の恐ろしさが描かれていく。
また、本作でもうひとりの主要人物となるのが、金物屋の店主だ。彼は松本サリン事件の被害者でありながら、事件発生当初は容疑者として扱われてしまう。
松本サリン事件はサリンを用いたテロ事件としてだけでなく、警察によるえん罪未遂事件、さらにマスコミによる報道被害としての側面もあったことを、本作はきっちりと描写する。
物語は松本サリン事件の発端から始まり、やがて地下鉄サリン事件へと至る。
松本サリン事件の時点でオウム真理教の関与が噂されていながら、なぜ警察は地下鉄サリン事件を未然に防ぐことができなかったのか。事件の特異性と同様、本作はこちらにも焦点が当てられている。
事件の当事国である日本では、本件をフィクションの題材として扱うにはなかなか難しい。
あれから22年が経つが、いまだに後遺症に苦しむ被害者の方々がいる。ルポルタージュやノンフィクションといった「記録」は残されているが、当時の人びとの“記憶”は物語によってこそ喚起される。
そのとき人々は何を感じ、何を恐れ、何に憤ったのか。後世の人間が同時代人と同じような感覚を得るには、物語が生む共感が必要なのだ。
世界中で無差別テロが頻発する現在、海外からの視点で紡がれた物語を読むことで、我々は改めてこの事件に向きあうことができるのではないだろうか。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama