人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、ウェルザード先生!
私のカラダ探して――同級生の遥から頼まれた明日香たち6人。その日から地獄のような日々が始まった!
脱出不可能な学校のなかで、遥のカラダを全部見つけるまで終わらない絶叫&絶望の鬼ごっこ。神出鬼没、どこまでも追いかけてくる「赤い人」からは逃げられない!! 繰り返される死と崩壊していく友情……極限のサバイバルホラーが今、幕を開ける。
「ジャンプ+」で人気No.1の呼び声の高い『カラダ探し』は、スピーディーな展開ととてつもない怖さから、怖いもの見たさの読者が続出の大注目作。今回は、原作を担当するウェルザード先生にお話を伺いました! とんでもなく怖いけど、ついつい読み進めちゃう『カラダ探し』のハイスピードなストーリーはどのように生まれたのか!?
原作者が注目するマンガ版『カラダ探し』のポイント
――「ジャンプ+」(集英社)[注1]で好評連載中の『カラダ探し』は、ウェルザード先生の同名小説を原作としています。マンガ版には、どの程度関与しているのでしょうか?
ウェルザード 村瀬先生[注2]からネームがあがると、それを担当編集さんから「チェックをお願いします」と渡されるんですね。僕としては、間違ったところがあれば指摘する、という程度のスタンスで、村瀬先生と直接のやりとりはしていません。
――では「マンガの原作者」という立場ではなく、「小説がコミカライズされた」という立場なんですね。
ウェルザード そういうことになります。 コマ割とか、マンガに関することは僕にはわかりませんからね。マンガならではの流れとかスピード感があるでしょうから、とりあえずネームを読んでみて、僕がワクワクしたらOKだと思ってます。基本的には、すべて村瀬先生にお任せしています。
――最初に村瀬先生からキャラ表があがってきた時は、どのような感想を抱きましたか?
ウェルザード 村瀬先生の絵は、最初に見た時から「この絵なら間違いない」という思いしかないです。「キャラが違うんだよなぁ」みたいなことは、いっさいないですよ。僕はキャラクターの外見については、小説ではほとんど書きません。できるだけ読者の想像にお任せしたいし、読んだ人がそれぞれ描いてくれたらうれしいですね。
――それはおもしろいスタンスというか、最近のラノベやキャラクター小説は、キャラクターを魅力的に書くことに力点を置く作品も多いです。ウェルザード先生は、ビジュアルはまったく意識しない?
ウェルザード 僕は主人公に自分を投影して書くんです。なので、キャラクターとしての完成度が上がると、それは自分の分身というより、いちキャラクターになってしまう。自分を投影できなくなるんです。
――ではウェルザード先生も、いち読者のようにマンガ版を楽しんでいる?
ウェルザード 毎回ネームが届く時点でワクワクしてますし、「ジャンプ+」で掲載されたら真っ先に読みます。で、読みながら「うわー、これ次回楽しみや!」って言ってるくらいですから(笑)。
――先の展開を誰よりも知っているのに(笑)。
ウェルザード そうなんですよ(笑)。「ここで引くのかー」とか、「やられたなー」とか思いますもん。
――小説とは違うマンガならではの要素って、どんなところでしょうか?
ウェルザード 今言ったように僕はキャラクターを作りこまないんですけど、マンガだとそうはいかないですからね。
登場人物同士の会話は、僕が小説を書いている時は、わりと淡々と話しているイメージでした。それがマンガになると、セリフを笑いながら言っていたり、蔑んだ目で相手を見ながら言っていたりするんですよね。
――表情がつくわけですね。
ウェルザード ぶっきらぼうな感じのセリフが、言い放つようなしゃべりかたになっていたり、あるいは理解できないからイラついているような感じになっていたり。フキダシのかたちにも変化があって、ニュアンスが全然違ってきます。
村瀬先生は『カラダ探し』をすごく読みこんでくれてますので、そういうことができるんですね。表情ひとつひとつを楽しんでますよ。
叫ぶ! 走る!凶悪な「赤い人」の誕生秘話
――では『カラダ探し』の設定部分に関する制作秘話をお聞きしていこうと思うのですが、「赤い人」、怖いですねぇ!
ウェルザード ありがとうございます(笑)。
――「赤い人」はどういった着想から?
ウェルザード 「どんな幽霊だったら怖いかな?」というのを自分で考えた時に、やはりベタですけど「白い女の幽霊」が怖いなと思ったんです。ただ、それだけだと、ほかの映画やゲームなんかでもありふれているじゃないですか。
――定番ですね。
ウェルザード 映画などに出てくる「白い女の幽霊」は、呪い殺すとか、不幸にするとか、そういうのばかりですよね。物理的に殺しにかかってくる幽霊って、いないと思うんですよ。
――物理攻撃の幽霊!
ウェルザード 追いかけて殺しにくる幽霊がいたらイヤだな、と。幽霊が追いかけてくる動作が、すごく怖いと思ったんです。追いかけてきた幽霊が人を殺し、返り血を浴び、全身が赤くなる。それも、今、赤くなったんじゃなくて、以前から返り血をあび続けて赤くなっている。
――かなり実体っぽさがあります。
ウェルザード もうひとつは、幽霊では視覚的すぎる部分があるんですね。
――というと?
ウェルザード 「赤い人」を(民間伝承にあるような)本当の幽霊にしてしまうと、登場人物たちは視覚で得た情報からしか物事を判断できなくなってしまうんです。
――そうか、幽霊って本来は足がありませんよね。
ウェルザード そういうことなんです。足がなくてスーッと移動したら、「赤い人」がどこにいるのかわからない。隠れている状態では、外の様子をうかがう手段がなく、いきなり飛び出して逃げなければならない。そうなると、その時点で殺されてしまう。
なので「赤い人」は、あえて足音が出るように設定しました。あと歌ですね。「赤い人」は歌うので、それで位置がわかるようにしています。
――じゃあ「赤い人」に、これだけはさせないようにしていることってあります?
ウェルザード あえて気をつけている点としては、ほかの登場人物と会話させないようにしていることかなぁ。
「赤い人」はしゃべるんですけど、基本的には歌う、「きゃはは」と笑う、「ねぇ赤いのちょうだい」と言う。この3つしかないんですね。無駄な会話をしても意味がないと思ったので。
――たしかにコミュニケーションをとれないほうが怖いですね。
ウェルザード 主人公が「離して!」と言った時に「いやだー!」とか会話しちゃったら興ざめじゃないですか。
――いま流行のゾンビとか吸血鬼ではなく、あえて幽霊にした理由は?
ウェルザード ゾンビとか吸血鬼って、倒しかたがあるものですよね。ゾンビなんかは、それこそ無双系ゲームのモブキャラのようにバッタバッタと倒していきますし。そうなると、敵と対峙することがメインではなく、結局は人間同士のドラマが主軸になってしまう。
――『ウォーキング・デッド』[注3]なんか、まさにその状態ですよね。
ウェルザード それに、倒せる人が作中で必要になります。その人を主人公にするか、その人と一緒に行動するか? いずれにせよ、最後は敵を倒して終わり……となりますよね。ただ、怪談に出てくる幽霊って、基本的には倒せないんですよ。
――なるほど、そこから逃げ出すしか解決策がない。
ウェルザード そうなんです。まぁ『着信アリ』[注4]みたいなのもありますけど、基本的には「呪いから逃れる」のが目的。『カラダ探し』は、「赤い人」を倒すのが目的ではないんです。
――そこで「カラダ探し」が目的になるんですね。
ウェルザード 僕はゲームが好きなので、ゲーム性のあるホラーのほうがおもしろいだろうな、と考えたんです。
たとえばオンラインゲームなんかで、6人パーティを組んで、学校のなかを探索していると歌声が聞こえてきたから隠れて、視点を切り替えながら「おい、いる?」「やばい、いるいる」みたいな。で、見つかったら死んじゃう。
――うわー、FPS[注5]だったら超怖そうじゃないですか。
ウェルザード 正直言ってホラーゲームは怖くてできないんですけどね。『サイレントヒル』[注6]なんて、プレイ開始から10分で売りにいきましたよ。「もう無理!」って。
――何系のゲームがお好きなんですか?
ウェルザード アクションとかRPGが多いかなぁ。定番ですけど、『ドラクエ』とか『FF』シリーズは昔からやってます。
――世代的に、「週刊少年ジャンプ」の黄金時代ですよね? どんなマンガを読んでました?
ウェルザード 『ドラゴンボール』とか、その頃に「ジャンプ」に載っていたのはだいたい読んでいました。
――話が飛びますけど、「カラダ探し」で遙の体が分割されるじゃないですか。あれ見た時に「ミート君だ!」[注7]って思ったんですけど。
ウェルザード いや、それは意識してなかったんですけど(笑)。まあ、あれは怪談によく出てくる「八つ裂き」にかけてるんです。だから八分割。
――あ、そうか。ミート君は七分割か。
ウェルザード 『カラダ探し』は上半身を左右で分割して8つ。実際、人体って重いと思うんですよ。
――2巻第10話で、そういうシーンがありますね。明日香が腰の部分を持ち上げた時に「重い」と言ってます。
ウェルザード そのへんの重さも考えて、上半身を左右に分割したんです。
- 注1「ジャンプ+ 集英社が配信するWEBコミック配信サイトおよびスマートフォン・タブレット端末向けのコミック配信アプリ。また、「週刊少年ジャンプ」の電子版やジャンプコミックスの電子書籍版を購入することも可能。かつて「週刊少年ジャンプ」などに掲載された作品が再録されたり、人気作の外伝的作品が掲載されるだけでなく、『カラダ探し』や『とんかつDJアゲ太郎』のような新作も無料で配信される。
- 注2 村瀬先生 漫画家の村瀬克俊。マンガ版『カラダ探し』を手がける。「週刊少年ジャンプ」で『DOIS SOL』、「週刊ヤングジャンプ」で『モングレル』などを連載。
- 注3『ウォーキング・デッド』 アメリカFOXチャンネルで大人気のテレビドラマ。2015年現在でシーズン5まで製作されている。現在のゾンビ・ブームの代表的な作品。
- 注4『着信アリ』 秋元康の小説を原作とする、三池崇史監督のホラー映画。2004年公開。携帯電話で死亡予告を受けた人々が、次々と不可解な死を遂げていく。
- 注5 FPS ファーストパーソン・シューティングゲームの略。プレイヤーは一人称視点でゲームを進める。『HALO』や『CALL OF DUTY』シリーズが代表例。
- 注6『サイレントヒル』 コナミが1999年にリリースしたPlayStation専用ゲーム。のちシリーズ化された、その第1作目。怪物が徘徊する霧深き街「サイレントヒル」を散策する傑作ホラーゲーム。
- 注7 ミート君 『キン肉マン』シリーズに登場する少年超人。本名はアレキサンドリア・ミート。頭脳明晰でキン肉マンのお目付役としてキン肉星から地球に派遣された。「7人の悪魔超人編」ではバッファローマンのハリケーンミキサーを食らい、身体をバラバラ(七分割)にされてしまう。額には「にく」の文字。