じつはホラーが苦手?ウェルザード先生のホラー遍歴
――少しお話がさかのぼりますけど、どうしてホラー小説を書こうと思ったんですか?
ウェルザード ほかのジャンルを書いたこともあるんですが、小説の1ページ目のひと言目で読者にインパクトを与えることができるのは、ホラーが1番じゃないかと思うんです。
――最初にガツンと。
ウェルザード 1ページ目の1行目で「どういう意味?」って思われるような言葉で、読者の興味をひきたい。恋愛小説にも似たところはあるんですけど、恋愛だとプラスの方向にドキドキする感じじゃないですか。甘ったるいというか……あんまり得意じゃないんで(笑)
――なるほど(笑)
ウェルザード ひとりでもいいから、読者をとにかく怖がらせられれば「俺の勝ち」みたいに思っているところはあります。
――もともと『カラダ探し』は、「E★エブリスタ」[注8]で連載している小説でした。書き下ろしじゃなくて、毎日連載なんですよね?
ウェルザード そうです。ですから、連載中にいかに多くの読者に読まれるかが、「E★エブリスタ」では勝負なんですよ。
――読者の関心を引く意味では、ホラーが適していると考えたんですね。
ウェルザード 基本的に「E★エブリスタ」は、携帯電話での閲覧を前提としているので、あまり長い文章だと読むのがツライんですね。かといって短すぎると満足感がない。
なので僕の場合は、1話分がだいたい500文字くらい。400字詰めの原稿用紙1枚くらいの文章量に、改行をくわえて500文字くらいにするのがいいかなぁと思っています。基本的には毎日更新なので、毎回のインパクトが必要だし、それにはホラーが最適だと思いました。
――もともとホラーはお好きなんですか?
ウェルザード じつは小さい頃は、まったくホラーがダメでした。
――それは意外。
ウェルザード キョンシー[注9]が怖くてトラウマになっていたんですよ。
――『霊幻道士』とか?
ウェルザード そうです、『霊幻道士』とか『来々!キョンシーズ』[注10]です。
――キョンシー映画って、コミカルじゃないですか。
ウェルザード そうなんですけど、キョンシーの存在自体が怖かったんですよ。夜トイレに行ったら、キョンシーが窓からのぞいてるんじゃないか、っていう恐怖です。もう全然ダメで、怖くて怖くて震えてました。
――『コイサンマン、キョンシーアフリカへ行く』【注11】もダメ?
ウェルザード 当時はそれでもダメだったと思いますよ(笑)。今だったら見られますけどね。
――いつ頃からホラーが大丈夫になりました?
ウェルザード 今から10年くらい前です。
――けっこう引きずりましたね。
ウェルザード いわゆるB級ホラーのDVDを買い漁って、見まくったんですよ。その頃に読んだ『彼岸島』[注12]も大好きです。
――なにがきっかけでホラーを見ようと?
ウェルザード いや、その、かわいい子が「ホラーが好き」って言ったので(笑)。
――それ大事です。超大事。
ウェルザード 無理をしてでも、震えながら見続けていたんです。そうしたら感覚が麻痺してきて。同じ作品を2度3度と見ていると、次になにがおきるか、展開がわかりますよね。それを何作か繰り返すと、新作を見る時であっても、次の展開が読めるようになってくるんですよ。「ほらきたー」みたいに。
――パターンが読めてくるんですね。
ウェルザード 心の準備ができるようになったんです。
――少し前に“Jホラー”[注13]がブームになり、「小中理論」[注14]などもクローズアップされましたが。
ウェルザード 有名どころは見てますよ、『リング』とか。僕の『カラダ探し』も、Jホラーをもとにしています。ただ僕は『エルム街の悪夢』[注15]とかも好きなので、Jホラーがベースであっても、そこにフレディとかジェイソン[注16]なりの要素をグッと入れました。
――それが「赤い人」なんですね。
「カラダ探し」に関するルールの設定
ウェルザード こうして「赤い人」の設定ができあがったので、次にその幽霊をいかす方法を考えて「カラダ探し」ができました。
――「カラダ探し」のルールは9つあります。この設定を考えたおかげで話が動き出した、みたいなものってあります?
ウェルザード いちばん先に思いついたのは「「赤い人」を見た者は、校門を出るまで決してふり返ってはならない。」です。これって絶対的なルールじゃないですか。「赤い人」を見た時点で、「あ、やばっ」と思って後ろをむいたら死んでしまう。
――見た位置によって、自分が行動できる方向も限定されてしまいますね。
ウェルザード 階段で昇り降りする時に、踊り場の位置で180度の方向転換をしているんですけど、大きく弧を描いているので、それは「ふり返った」という判定にはなっていません。
――動作としての「ふり返り」がアウトなんですね。
ウェルザード そういうことです。「その場でふり返ってはいけない」のであって、その場でも90度まではOKですし、バックしていくことも可能です。
――「ふり返ってはならない」と言われる話[注17]は、伝承とか怪談とかと相性のいいルールですよね、これ。
ウェルザード 怪談や都市伝説でも「ふり返り」に関するルールはよく聞きます。でも、ふり返ったらどうなるのか、あんまり明示されないんですよね。だから『カラダ探し』では、もう明確に「ふり返ったら殺される」としました。
――「カラダ探し」と「赤い人」に関するルールは、作品の舞台となる県立逢魔高校の「学校の怪談」として生徒の間に断片的に伝わっているんですよね?
ウェルザード ただ「学校の怪談」って、同じ学校の生徒であっても、人によって知っている話が違ったりします。オチが違ったり。
だから、僕自身が「カラダ探し」をやると想定して……、まあ明日香になったつもりで書いていたんですけど、じゃあ初めから全ルールを知っているかというと、そんなことはないんです。わからないことが多すぎるんですよね、絶対的に。
――自分が当事者になって、実際に動くと想定して。
ウェルザード はい。やっていくなかで、徐々にわかっていくと思います。校内放送で呼ばれて移動する、突然現れる、ふり返ったらそこにいる……と「赤い人」の登場パターンに種類があることに気づき、じゃあ複数の条件を同時に満たす場合はどれが優先されるのか?
――「カラダ探し」をやらされているほうが、そこで能動的に動ける幅が生まれるんですね。
ウェルザード ただし、そこで新しい気づきがあったとしても、仲間内で仲違いしていると情報の共有ができないんですね。ルールに関しては読者からもツッコまれることがあるんですよ。
「E★エブリスタ」だと、読者からのコメントがあるとすぐ通知がくるので、リアルタイムで見られます。たとえば6人中の3人が「赤い人」を引きつけておき、各自が殺される前に順番に振り返るのを延々と繰り返せば大丈夫じゃないか、その隙に残り3人でカラダを探しにいけばいい、とか。ただ、そういうことをすると、「赤い人」は怒るんです(笑)
――怒る、っていいですね。なんか幼児性の怖さみたいなモノがありますし。
ウェルザード 怒る幽霊、ってけっこうなモンやと思いますけどね(笑)
特殊なルール設定と遥の「怖さ」
――「カラダ探し」のルールのなかでも、ひときわ特殊なのが、最後の「「カラダ探し」では死んでも死ねない。」ですね。同じ1日をループして繰り返すことになります。
ウェルザード これがいちばん最後に作ったルールです。じつは第1話を書き終わった時点では、まだ悩んでました。とりあえず第1話で全員殺してしまったけど、このあとどうしよう?
――また別の6人を1セット用意しなければならない。
ウェルザード そうなります。それだと新しい主人公をどんどん用意しなくちゃならない。というよりもですね、それだけ大勢死んだら、普通は警察が動くじゃないですか。
――それはそうですね(笑)
ウェルザード 警察が動くような展開にはしたくなったんですよ、そっち方面にくわしい人は絶対にいるし。
――「都市伝説」とか「学校の怪談」ですむ範囲内で収めようと。
ウェルザード このルールだったら警察が動くことはないですからね。
――ということは、小説の第1話時点では、登場人物はこの6人で固定していたわけではないんですか?
ウェルザード 第1話を読み直してもらえると、いろいろ発見があると思います。
――9つのルールのなかで、苦労したものはありますか?
ウェルザード うーん、ある意味ではこの作品のキモとなっているものですが、「「赤い人」に殺された生徒は、翌日、皆の前に現れて、「カラダを探して」と言う。」ですかね。
――遥、怖いですねぇ。
ウェルザード 遥は本当に怖くしたかったんですよ。「こいつ憎い」「こいつ嫌い」って思われるようなキャラにしたかった。
「カラダ探し」をさせられる6人は、仲間内でも「こいつ最低」っていうようなイヤなヤツはいるんです。でもそれ以上に「遥、無理!」って思ってほしい。とんでもなく凶悪な存在としての遥がいるので、たとえば仲間内で揉めたとしても、あとで仲直りした時に「おまえあんなことやっておいて、よく戻ってこれたよな」みたいに思われるのではなく、「よく戻ってきてくれたな」という感覚になれると思うんです。
――わかりやすい悪役がいると、話がうまく転がっていく?
ウェルザード 本当にそうだと思います。『カラダ探し』では「赤い人」がいるんですけど、「赤い人」の怖さだけだと、慣れちゃうと思うんですよね。
――な、慣れますかね?
ウェルザード 慣れると思います。なので、遥や別の恐怖を持ってきておいて、そっちに意識を向けさせておいて、そしてとんでもない方向から「赤い人」が飛んでくる。
――「赤い人」とは別種の恐怖をになっているのが遥なんですね。
ウェルザード 説明パートとか日常生活のシーンは、普通だったら怖くないですよね。それは読者もわかってるから、そこになにか恐怖がないと読んでもらえない。困ったら昼休みまで飛ばして、「そろそろ遥が来るぞ……」と。
――いろいろなバリエーションの頼みかたをしてきますよね。
ウェルザード 最後のほうはけっこう困ってましたよ。「もうネタねぇよ」って。どうすればいい? なにが怖い? って、妹にも聞いてましたもん。遥を恐怖の存在として成立させるには重要なんですけど、書いている時に、僕のなかではいちばん苦しかったところです。
今後の展開でキーパーソンとなるのは……?
――コミックスは第2巻が発売されました。2巻では第17話までいきますが、全体のどれくらいでしょうか?
ウェルザード まだ半分はいってないです。これは原作小説にもいえることなんですけど、前半はスピードを上げて、次々と物語を展開していく感じだったんですね。後半から詰め込んでいくので、まだ半分はいってない感じです。
――今後の展開を楽しみにしている読者に、メッセージをお願いします。
ウェルザード 1巻までの内容は、読者の方に食いついてもらいたいので、とにかく怖がらせたい一心でした。ワケがわからないまま人が死んでいくし、仲間同士の関係が悪くなる。
2巻からは、ちょっとずつ謎が出てきたり、仲間同士の関係がさらに悪化したり、あるいは修復したり。ゲーム的な要素として、1日のうちにどれだけの情報を主人公たちが得られるか、が重要になってきます。要は、「自分たちの意思で動ける」状態ができあがってくるんです。
――なるほど、1巻ではやみくもにあがいているだけだった。
ウェルザード そうです。主人公たちが自分で考えて行動できるのが2巻以降です。
――キーパーソンは?
ウェルザード 八代先生です。
――2巻ラストに登場する先生ですね。
ウェルザード 村瀬先生の描く八代先生は、予想以上に不気味でした(笑)。「カラダ探し」をしている主人公たち6人だけでなく、八代先生にも注目してください。
――今後の展開に期待してます。怖そうだなぁ。
- 注8「E★エブリスタ」 株式会社エブリスタが提供する、小説やコミックの配信サイト。携帯電話、スマートフォン、パソコンから閲覧や投稿ができる。小説版『カラダ探し』は、もともと「E★エブリスタ」で連載していた。
- 注9 キョンシー 中国の民間伝承の妖怪(の亜種)。死後に動き出す死体のこと。創作作品では、道士が呪術で死体を使役するネクロマンシーの一種であり、道士の術が及ばない状態では人を襲うとされる。キョンシーに噛まれた人間は、キョンシーになるなど、吸血鬼のような特徴づけがなされている。1980年代後半、日本では映画『霊幻道士』や『幽幻道士』が大ヒットし、空前のキョンシー・ブームが起こった。香港や台湾映画ならではのアクションとコミカルさにホラーの味付けが受け、特に『幽幻道士』シリーズで主役テンテンを務めた美少女子役・シャドウ・リュウはアイドル的な人気を博した。なお、2013年には『霊幻道士』のリブート作『キョンシー』が公開されたが、こちらはゴア表現の多いハードなホラー作品となっている。
- 注10『来々!キョンシーズ』 映画『幽幻道士』のヒットを受けて台湾で製作されたテレビドラマシリーズ。『幽幻道士』のスピンアウト的な作品。日本ではTBS系列で放映された。
- 注11『コイサンマン、キョンシーアフリカへ行く』 1991年の香港映画。映画『コイサンマン』(日本初上映時は『ミラクル・ワールド ブッシュマン』)シリーズの大ヒットで人気者となった主演・ニカウを起用したキョンシー映画。宗主国(当時)イギリスから輸送中の遺体(キョンシー)をアフリカに落としてしまい、サバンナでコイサンマンとキョンシーが激突するという、かなりジャンボリーな作品。ちなみに、ナレーション役はチャウ・シンチーだったりする。
- 注12『彼岸島』 松本光司によるサバイバルホラーマンガ。2002年から2010年まで「週刊ヤングマガジン」(講談社)にて連載された。続編に『彼岸島 最後の47日間』『彼岸島 48日後…』がある。彼岸島で行方不明となった兄を探すために島へ渡った主人公・宮本明とその友人が、彼岸島にいる吸血鬼と死闘を繰り広げる、というストーリー。テレビドラマ、映画、ゲーム化もされた。
- 注13 Jホラー 1990年代後半から2000年代初頭に大ブレイクした日本製のホラー映画作品の総称。『女優霊』(中田秀夫監督)がその嚆矢とされる。代表作品としては『リング』(中田秀夫監督)や『呪怨』(清水崇監督)など。
- 注14 小中理論 小中千昭(脚本家、小説家)のホラー作品における脚本術を、後続のホラー作家たちがメソッドとして総称したもの。小中千昭はオリジナルビデオ作品『ほんとにあった怖い話』シリーズなどの脚本を手がけ、のちのJホラー作家に多大な影響を与えた。いわば「Jホラーの父」的な存在。のちに『ホラー映画の魅力 ファンダメンタル・ホラー宣言』(岩波書店、2003年)を著し、いわゆる「小中理論」を体系的に述べた。
- 注15『エルム街の悪夢』 ウェス・クレイブン監督によるアメリカのホラー映画(1984年製作)。殺人鬼フレディ・クルーガーは、人間の夢のなかに登場し、その人間を殺害する。右手に装着した鋭いかぎ爪と、茶色のソフトハット、赤と緑のボーダーのセーターがトレードマーク。
- 注16 ジェイソン ジェイソン・ボーヒーズ。『13日の金曜日』シリーズに登場する殺人鬼。ホッケーマスクがトレードマークだが、じつはホッケーマスクを装着するのはシリーズ3作目から。
- 注17「振り返ってはならない」と言われる話 神話や民話における「禁室型」(見るな)の類型。妻エウリュディケーを取り戻しに冥界へと赴いたオルペウスは、冥王ハーデースから「地上に戻るまで振り返ってはいけない」と言われるが、地上を目前に振り向いてしまい、エウリュディケーは冥界に戻されてしまう、という話がその典型例。イザナミが黄泉平坂を下って黄泉国へとイザナミを取り戻しに行く話でも「見てはならない」のタブーを侵す。異界との狭間では、振り返ることがタブーとされる。
特別掲載『カラダ探し』!
現在、「このマンガがすごい!WEB」で3話まで無料公開中!!
取材・構成:加山竜司
撮影:辺見真也
■次回予告
とんでもなく怖くてとんでもなくおもしろい『カラダ探し』の世界を描き出す、作画担当の村瀬先生を直撃! 次回も心して読んでね!!