365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
5月18日は阿部定事件の日。本日読むべきマンガは……。
『上村一夫完全版シリーズ 淫花伝1 阿部定』 上巻
戸川昌子(作) 上村一夫(画) 岡崎英生(脚色) K&Bパブリッシャーズ ¥1800+税
1936(昭和11)年の5月18日は、犯罪史上に名高い「阿部定事件」の起こった日。東京、荒川区の待合で阿部定は愛人・石田吉蔵を殺害し、逃走。死体からは局部が切断され、持ち去られていた……。
阿部定は犯行から3日目に逮捕されるのだが、シーツと石田の体に血文字で「定 吉二人キリ」と残すなど、まさに事実は小説より奇なり!
この事件に言及した本は数多く出版され、大島渚監督による『愛のコリーダ』を筆頭に映像化も多数。
ここでは妖艶な女性を描かせたら右に出る者はいない、上村一夫の筆による阿部定事件を紹介しよう。
定は、裕福な畳店の、7人兄弟の末っ子として生まれた。近所でも評判の美少女だった彼女は、両親に甘やかされわがままいっぱいに育つ。学校に行くでもなく働くでもなくぶらぶらしていた15歳の頃、定は近所の大学生に強姦されてしまい……このことはのちの彼女の人生に大きく影響していくのだ。
いっぱしの不良少女として浅草あたりで名をとどろかせ、奉公先はすぐにクビになり。やがて芸者の世界に足を踏み入れた定だが、なかなか安住の地は見つからない。
定が求める愛情とはなんなのか。当人にもそれはわからない。生きていくために、また内からほとばしる何かに駆られるように男たちと肌を重ね、それでも満たされることのない定のものさみしい眼差しが美しい。
じっとりとした愛欲に身をうずめる……そのひと時の悦楽にたゆたう伝説の妖婦を描いた一大ロマンである。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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