365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
6月23日はスリの大親分・富田銀次が逮捕された日。本日読むべきマンガは……。
『戦線スパイクヒルズ』 第1巻
原田宗典(作) 井田ヒロト(画) スクウェア・エニックス ¥505+税
1909年の本日、稀代のスリ師「仕立屋銀次」こと富田銀蔵が逮捕された。
当時、東京には人混みに紛れて財布や金品を盗るスリたちが1500人以上存在したとされており、そのなかで銀次は汽車で活動する「箱師」として、一大スリ組織を率いながら稼業を行っていた。スリの腕前は日本一と恐れられており、現在の荒川区にあった日暮里村の豪邸に子分たちと住んでいたというのだから、その儲けが相当なものだったことがわかる。
1909年6月、元新潟県知事の柏田盛文が伊藤博文から送られた金時計を盗まれたことをきっかけに始まった大検挙によって銀次とその部下たちは逮捕される。だが、その知名度の高さゆえに後世でも知名度が高く、現在では『桃太郎電鉄』シリーズの「スリの銀次」など、様々なフィクションのネタにされるスリの代名詞的存在だ。
今回紹介する、原田宗典の小説『平成トム・ソーヤー』を原作としたマンガ『戦線スパイクヒルズ』の主人公・ノムラノブオと、作中で師匠となる千波チサトは、天才的なスリ技術の持ち主だ。
ノムラは、同じ高校の同級生“スウガク”こと蕪木次郎にスリの現場を見られたことをきっかけに、ヤクザが手に入れようとしている早慶大の入試問題を横取りする計画に加担していく。
スリのシーンはまるでバトルマンガのような緊張感に満ちており、相手の“気”と調和することで、鍵付きのアタッシュケースの中身すら抜き取るなど、一般的に思いつくスリテクニックの上をいく描写の数々には息を呑む。街では絶対会いたくないが、見てるぶんには非常にかっこいい!
スリだけでなく、チサト婆さんの協力をえながら鬱屈した現状から脱しようと計画に臨むトリオの冒険を描いたメインストーリーも、やっていることは犯罪ながら爽やかさに満ちており、読んでいて思わず応援したくなってしまう。
今日という日にはピッタリの、青春ピカレスク作品だ。
<文・山田幸彦>
91年生、富野由悠季と映画と暴力的な洋ゲーをこよなく愛するライター。怪獣からガンダムまで、節操なく書かせていただいております。
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