『クリームソーダシティ』第2巻
長尾謙一郎 小学館 \552+税
(2014年6月30日発売)
連載中の作品内における突然の連載終了発表。その掲載号の目次には「今作はある都合により、未完という形で連載終了することになりました。身、引きちぎられる思いです」との作者コメント。ある都合とはいったい?
さまざまな憶測が飛び交うなか、件の『クリームソーダシティ』の2巻が発売された。帯には「かの権力から指摘を受けた問題シーンを完全掲載!!」とあり、雑誌終了回に続く描き下ろしも収録されている。
本作は売れないミュージシャン、Dr.皇とTAKO介の登場から始まる。
芸能界なんてまっぴらごめんだぜとうそぶく彼らは、街からノイズを除去し、地上の楽園を創造するため、「Do the right thing(正しい事をやろう)」と非営利団体D・R・Tを結成。ある雨の日に街頭演説中の政治家を撃つ――気づくと2人は、雲のようなベッドにすばらしい料理、水着の美女が常に傍らにいる楽園にいた。そう、この地こそ、クリームソーダシティ!
伝説の生き物や絶滅した鳥さえナチュラルに存在する夢のような世界。2人が現実世界に引き戻されて以降は、フラッシュバックのようにクリームソーダシティ的世界と現実が交差し、その境界は曖昧になってくる。
「こうきたら、次はこうなるだろう」という読み手のパターン認識を、するっと裏切る表現の連続に、南の島で見たことのない鳥を発見したような、酔っているのにハッとさせられるような心持ちにさせられた。
近年、意識と無意識の境界、さらには善悪の境界をも越えて、新たな表現を模索している(ように見える)作者が、前作より歩を進めた表現がここにある。
本作について考えていると、先に触れた「身、引きちぎられる思いです」という、いささか芝居がかった言い回しの向こうで、作者が笑っているような気さえしてくる。
あらゆる憶測が飛び交うことで膨らんでいく物語を生み、作者はリアルと創作物の境界さえ曖昧にしてしまったようだ。
<文・山脇麻生>
ライター&編集者。「朝日新聞」「SPA!」などにコミック評を寄稿。
Twitter:@yamamao