『黄門さま~助さんの憂鬱~』第3巻
徳弘正也 集英社 \562+税
(2014年9月19日発売)
やはりイメージするのは、下ネタのギャグマンガ!? 往年のヒット作『ジャングルの王者ターちゃん』の印象が強い読者からすると、徳弘正也が骨太で濃厚な人間ドラマの描き手と言っても、正直、違和感があるかもしれない。
じつはデビュー連載作『シェイプアップ乱』でも、下世話なギャグを散りばめつつ、泣かせる名作も展開させていた作者だが、青年誌に舞台を移して以降の作品はとにかく“すごい!”のひと言だ。
ヒロインものとして、壮大な伝記SFを展開させた『昭和不老不死伝説 バンパイア』、探偵ものの枠組みのなか、犯罪における加害者家族と被害者家族の光と影を描き出した『亭主元気で犬がいい』。
そして最新作『黄門さま~助さんの憂鬱~』も水戸黄門をモチーフにした時代劇でありながら、雇われ侍の悲哀とひと筋縄じゃいかないご一行の人間ドラマを描いた、ハードボイルドな思惑深いドラマになっている。
諸国漫遊の旅を続ける水戸光圀こと水戸黄門。その懐刀である助さんと格さんは、歴代、藩のなかから選ばれているが、今回の旅の格さんは生粋の藩士であるのに対して、助さんは元浪人。格さんが出世を約束されて傍若無人に振る舞う一方、格さんは汚れ仕事を押しつけられてばかりいる。
そもそも光圀の旅の目的は世直しなどではなく、その通俗ぶりから、刺激を求めてのこと。臣下は道具にすぎないのだ。そのなかで、助さんはご老公の命令のもと、最善の策を取ろうとはするが……。
父の仇である男との再会など、助さんは旅のなかで、臣下という立場においても自分自身にとっても辛い環境や立場に置かれていく。だが、じつは光圀はすべてを見越していて、己の楽しみのためにそんな状況を仕掛けてもいるのだ。
ワンマンなボスに振り回されながら、己を貫く不器用ながら有能な部下ということでは、江戸時代の会社ものという見方もできる本作。また、悪趣味なタヌキじじいの光圀のSっぷり、健気でまっすぐな助さんのMっぷりを味わうというのも、徳弘作品らしい下世話な楽しみ方かもしれない。
これも青年誌に移って以降のすべての作品に共通することだが、ドラマ性は深まっていても下ネタギャグは薄まっていないというのが、徳弘作品の魅力だ。
この笑える下品さこそ、作者の絶対的な印籠で紋所。笑わせてもくれて、読み込ませてもくれる。作者の力量に、ひれ伏さざるをえない。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。