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『舟を編む』 上巻 三浦しをん(作) 雲田はるこ(画) 【日刊マンガガイド】

2017/08/05


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『舟を編む』



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『舟を編む』 上巻
三浦しをん(作) 雲田はるこ(画) 講談社 ¥620+税
(2017年7月7日発売)


映画化もされた三浦しをんの同名小説を、『昭和元禄落語心中』の雲田はるこがマンガ化!

辞書編集という仕事にフォーカスしつつ、言葉やモノづくりへの愛を炸裂させる人々を描いた本作。馬締光也(まじめ・みつや)を始めとしたキャラクターも魅力的に描かれている。
映画版では馬締の役を松田龍平が演じていたけど、雲田版ではまた少し違った表情を見せてくれる。

今回刊行された上巻は、ヒロイン香具矢(かぐや)と馬締の関係や、馬締と同期でライバル(?)の西岡の葛藤などが山場となる。辞書編集に興味のないはずの西岡が熱い側面を覗かせるのは原作の中盤以降なので、この上巻では人知れずコンプレックスに悶える。
馬締ほど仕事に打ちこめない、自分は主人公体質じゃなくて脇役系だよね、と思ってる読者ならきっと共感してしまうのでは。

しかし本作のキモは、色んな性格の人々が言葉を紡いで「舟を編む(辞書をつくる)」という部分。
馬締だけで辞書をつくることはできない。西岡やそのほかの登場人物の存在が欠かせないのだ。

辞書をつくる、とはどういうことなのか。馬締と香具矢が後楽園の観覧車で交わすセリフに注目したい。

「少し さびしいけれど 静かに持続する」

小説では地の文になっているこの表現を、雲田版では馬締が語っている。

馬締は、定年退職する荒木の後継者として編集部に迎え入れられ、西岡は会社の予算の都合で別の部へと転属されることになる。会社組織ではよくあることだけれど、それは「少しさみしい」。
それでも編集は続いていく。

もちろん、「少しさみしい」のはキャラクターの人間関係だけではない。
言葉が時代とともに移り変わっていく以上は、辞書に載せられる単語も改訂のたびに取捨選択される。観覧車と、辞書編集と、会社組織とを、さみしさを帯びた循環として描き、その持続を愛する。
本作では香具矢が板前であることから、さらに料理と料理人とそれを食べる人の関係も重ねられてわかりやすく表現されている。

その香具矢は、辞書編集部が舞台になる以上どうしても出番が少ないのだけれど、馬締に劣らずエキセントリックなキャラクターで描かれているのが楽しい。

下巻ではクライマックスが描かれる。ゆっくりと刊行を待ちたい。



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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