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今回紹介するのは、『ポーの一族 ~春の夢~』
『ポーの一族 ~春の夢~』
萩尾望都 小学館 ¥648+税
(2017年7月10日発売)
萩尾望都の傑作『ポーの一族』、40年ぶりの続編。
『ポーの一族』の物語のなかで、アメリカンゴシック文学の巨匠、エドガー・アラン・ポーから名前をとられた主人公の美少年・エドガーとアランが、他者の生気を吸う吸血鬼(バンパネラ)として様々な場所を経巡りながら、永遠の時を生きる。
今回の『春の夢』は、第二次大戦中にイギリスのウェールズ地方の島を訪れたエドガーたちが、迫害を避けてハンブルクから移住してきたブランカとノアの姉弟と出会う。ブランカたちは地元の人々から「敵性国民」と陰口を叩かれながら、「水晶の夜(クリスタル・ナハト)」のトラウマを抱えながら暮らしている。
1920年代のパリ万博では、エドガーとアランが出会ったもうひとりの吸血鬼・ファルカも登場し、彼は眠りの時季にさしかかって弱ったアランを気遣う。ファルカは800年以上も生きているというスラヴ系の吸血鬼(ヴァンピー)で、普段は陽気だが過去の話をすると激昂する。エドガーは、ファルカがアランを連れ去ろうとしていると疑うが、アランもファルカについていきたいという。
「ポーの一族」の呪縛に脅かされるエドガー、身体が弱くてエドガーから離れられないアラン、何百年も生きていて頼りになりそうだが闇も抱えたファルカ、若い希望と民族迫害の傷を抱えたブランカといった群像がダイナミックに絡みあい、感情を交差させていく様子はさすがの萩尾節。
タイトルの「春の夢」とはシューベルトの作品「冬の旅」に出てくる歌詞で、冬に旅をする男が春を思って歌うもの。戦争中の被差別者という立場から、さまざまな「夢」を歌にこめるブランカのせつない姿が美しく描かれていて、胸が苦しくなる。
吸血鬼たちが生きる何百年というスケールと、人間たちの「短い」命の儚さが、みずみずしいウェールズの季節のなかに織りこまれている。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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