365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
1月21日はチャールズ・ダーウィン研究所が発足した日。本日読むべきマンガは……。
『小学館文庫 イグアナの娘』
萩尾望都 小学館 ¥514+税
1964年1月21日は、ガラパゴス諸島にて、主にこの地の動植物や環境を保全・調査するためのチャールズ・ダーウィン研究所が、正式に発足した日だ。
そこには珍しいゾウガメやフィンチなどが生息し、自然の楽園にして生物学の聖地といえるが、南米のエクアドル共和国からさらに飛行機で1000キロほど渡航する必要がある。
日本から遠く離れたガラパゴス諸島に行かねば、という使命感を持っている小学生女子は少ないだろう。
しかし自分の姿が「イグアナ(おそらくウミイグアナの一種)」に見えたのなら?
せめて、その地へ渡り自身のルーツを探すことを夢見るしかないのでは。
萩尾望都の『イグアナの娘』は、はたから見れば普通の女の子であるリカが、母親のゆりこの目には「ガラパゴスのイグアナ」に見えてしまい、リカ自身も同じ認識を持ち、愛されない・愛せない母娘関係をファンタジックに描きだした作品だ。
少女マンガの名作として名高く、難しいモチーフにもかかわらず1996年にドラマ化され、リカは菅野美穂、母を故・川島なお美が演じ、凝ったイグアナ少女の造形や丁寧な脚本で話題を呼んだ。
コミックエッセイを中心に「毒親」というジャンルまで確立された現在、読みかえしてみると、フィクションとはいえ、ずいぶん「明るさ」に包まれていることに驚く。
リカは早くに良き伴侶を見つけて新たな家庭を築き、母とはのちに、ある形で精神的に和解できている(そのきっかけになる夢にも、やはりガラパゴス諸島があらわれる)。溺愛された妹マミも、母の支配から逃れリカの味方となる。
毒親にありがちな行動として、娘の自立を阻み、その母の権力に従うかのように、きょうだいたちも“害”になるケースも少なくない。その娘自身も、母親の死後ですら支配から逃れられない苦悩を綴ることもある。
また、リカは自身がイグアナであることを淡々と受け入れたせいか、独特の魅力を持ち、わりあいモテている。
「カワイイ」が強制力すら持つようになった昨今、としごろの少女が不気味なイグアナの容姿を抱えて生きるのは、ずっとハードルの高いことに感じられる。
チャールズ・ダーウィンは、ガラパゴス諸島を訪れたことで進化論についての著作『種の起源』の着想を得ており、冒頭に記したとおりその名を冠した研究所が当地に設立された。
ひるがえって、母娘、家族の関係や女子の生き方は、はたして「進化」できているのか?
『イグアナの娘』のせつないハッピーエンドを味わいつつ、考察してみたいところである。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。