日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『なのはな 新装版』

『なのはな 新装版』
萩尾望都 小学館 ￥556+税
（2016年3月10日発売）

2012年に上製本として発売された『萩尾望都作品集 なのはな』に、「ビッグコミック」本誌に掲載された「福島ドライヴ」を新たに収録した一冊。

表題作「なのはな」とその続編「まなのはな －幻想『銀河鉄道の夜』」では、福島に住む少女ナホちゃんを主人公に時空を超えて受けつがれる、人間の過ちと再生への祈りと希望が描かれる。

「プルート夫人」「雨の夜 －ウラノス伯爵－」「サロメ20X」は原子力を美男美女に擬人化したSFシリーズ。彼らの危険さを知りつつも、誘惑や欲望に負けて彼らの前にひれふさずにいられない人間たちの姿が、古典戯曲に託して描かれてゆく。
その、たんなる原発批判とも違う、人間の根源的な愚かしさや哀しさを暴きつつもまるごと抱きしめてみせるような世界観は、さすが萩尾望都！とうならされてしまう。

そして、新録となる「福島ドライヴ」は震災に翻弄された男女の人生を、甲斐バンドの『立川ドライヴ』に託して、イメージフィルムのように描いた異色作。

前ヴァージョンをリアルタイムで読んだ人も、当時は生々しすぎて読めなかったという人も、5年という歳月を経たからこそ見えてくるものと、5年やそこそこでは決して変わりようがないものと……。
そこにこめられた様々なメッセージをあらためて受け止めたい。

＜文・井口啓子＞
ライター。月刊「ミーツリージョナル」（京阪神エルマガジン社）にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」（DU BOOKS）寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69