365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
9月16日はエルトゥールル号遭難事件が起きた日。本日読むべきマンガは……。
『テシェキュルエデリム~ありがとう』(Kindle版)
石川雅之 講談社 ¥100+税
明治23年(1890年)のこの日、和歌山県の紀伊大島のやや近く、熊野灘沖にて、ある大型外国船が沈没した。
当時のオスマン帝国から、大日本帝国への初の親善訪日使節団を乗せていた軍艦・エルトゥールル号である。
もともと老朽化しており、補修を重ねて日本にたどりついた軍艦だった。台風が迫っていたため、日本側は引きとめたが、帰国を急いだエルトゥールル号は暴風雨に遭い座礁、600人を越える乗船者は夜半に海に投げ出された。
生存者は命からがらに、灯りをたどって、紀伊大島の樫野埼灯台へたどりついた。発見した村の人々は遠い国から来た異人たちにふりかかった海難を知って、どのように動いたのか。
その行動に応じて、100年近くたった頃、異国の地イランのテヘランにて戦渦に巻きこまれ、窮地に立たされた日本人たちのために、かつてのオスマン帝国を引き継ぐトルコ共和国の人々からなされた恩返しとは……。
不平等条約改正のきっかけになったことで、歴史上有名な「ノルマントン号事件」(こちらも同じく熊野灘で起こった沈没事故であり、日本人乗客が見殺しにされた、といわれる)に比べて、知名度は低いかもしれないが、このエルトゥールル号遭難事件も、ぜひ知っておきたい歴史秘話である。
これを『もやしもん』『純潔のマリア』で知られる石川雅之が、迫力満点かつ親しみやすい絵柄で描き綴ったマンガが『テシェキュルエデリム~ありがとう』である。
ちなみに冒頭にはかわいい「菌」に少し似た、トルコを象徴するものも登場する。
長らく幻の読み切りとされていたが、現在は電子書籍で手軽に読める。
生存者はわずか69人の大惨事だった。
防げたかもしれない事故であり、美談として声高に喧伝するのは気がひけるが、日本とトルコの深くあたたかい交流、および「困っている者は、どんな相手でも助ける」両国の人々の精神を、これからも語り継いでいきたいものだ。
<文・和智永妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWEB記事などを手がけるライター、たまに編集。とある学生街に在住し、いろいろと画策(だけ)しつつ、男児育てに追われる日々です。