365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
9月23日はジークムント・フロイトの没日。本日読むべきマンガは……。
『フロイト1/2』
川原泉 白泉社 ¥648+税
1939年9月23日は、ジークムント・フロイトが没した日だ。
精神分析学の創始者として著名な人物であり、『夢判断』などの著作は今でも有名である。
没後、魂だけの存在となったフロイトが取り持つ「夢」の世界を、コミカルに描いたのが川原泉の『フロイト1/2』だ。
8歳の篠崎梨生と、登山帰りだった大学生の瀬奈弓彦は、小田原城にて出会う。そこで、提灯を売っている、外国人らしき風変わりなおじいさんを見かける。2人は、「東」「西」と書かれた2個1組で10円の提灯を買って分けあうことに。しかし、その場に いた弓彦の友人、八木沢省悟にはおじいさんの姿など見えていなかった。このおじいさんこそが、「魂のフロイト教授」なのである!
その後、熱を出した梨生は、弓彦と省悟が雪のなかをさまよう夢を見る。実際に雪山で省悟とともに遭難していた弓彦は、もうろうとした意識のなか、提灯を手にした彼女の幻に導かれる。
それから10年後、梨生と弓彦は偶然再会し、また同じ夢を見るようになる。どうやらあの小田原城の提灯がキーアイテムのようだ。弓彦はゲーム会社の社長として活躍していたが、理由あってすっかり拝金主義になっていた。そんな弓彦は、根っからのおひとよしである梨生が登場する夢に困惑してしまうが……。
この提灯をつくったフロイトの魂は「人と生まれたからには いい夢を見るんだよ」と願っている。
ユダヤ系である彼は、晩年、ナチスドイツのもと迫害に遭い、不本意ながらロンドンへ亡命したが、祖国の同胞や身内は犠牲になってしまった。83歳と長命ではあったが、長年ガンに苦しみながらの死だった、という。
同じ心理学者としてやはり高名な、カール・グスタフ・ユングを愛弟子としたが、のちに決別するなど、人間関係で苦悩したことも推測される。だからこそ、生前のしがらみから解放されて自由になったフロイトは、こんなにお茶目な性格では?と想像するとなかなか楽しい。
小田原城へ行ったら、こっそり探してみてほしい。松の木の下で、「風呂糸(ふろいと)屋」の旗を掲げて風変わりな提灯を売っている、ダジャレ好きのおじいさんを……。
<文・和智永妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWEB記事などを手がけるライター、たまに編集。とある学生街に在住し、いろいろと画策(だけ)しつつ、男児育てに追われる日々です。