『花とキノ娘の図鑑』
木戸りんご 徳間書店 \620+税
(2015年3月13日発売)
キノコと花を擬人化して対比し描く、という発想がなにより見事。
なにせ、花は雄しべと雌しべあっても、キノコは性別がない。思春期特有の、性差の曖昧な感覚を表現するにはもってこいじゃないか。
主人公の占地(しめじ)は、メガネをかけていて中性的な外見、一人称は僕、履いているのはスカート。
好きな相手は榎木(えのき)。これまたボーイッシュ(?)な見た目で、ぱっと見は男だけど、やはりスカートを履いている。
性別は「どちらでもない」。占地と榎木はわりとラブラブしい関係。「無性カップル」とでも呼ぶべきか。
「キノコ人」たちを、性別がはっきりしている「花人」の鈴蘭が追いかけ、彼女(?)らから生えるきのこを採取して食べている。
この出会いをきっかけに、鈴蘭は占地や榎木と仲よくなっていく。花人とキノコ人はどうやら人種・生態が違うらしい。
占地は榎木に恋をしている。キノコ同士は恋をしても交配できないのに、なぜ好きになってしまうのか。
花人は昔からキノコ人よりも雑種よりも優れていて、バランスを崩してはいけないと言われている。でも本当にその関係は守らねばいけないのか。
キノコや花の生態に、人間が抱える数多くの「人間関係の矛盾」を重ねあわせた作品。出生の種別差、性差、友人関係、恋愛など、非常にややこしい問題を「キノコ」という特殊な菌類の生態に託すことで、うまく隠喩している。
思いが高まると、キノコ人からは大きなキノコが生える。これを刈り取って、
食べる。相手の体の一部を食べる、というだけでなく、思いを食べる、というのは非常にフェティッシュ。
この物語は1巻完結だが、非常に掘り下げがいがあるモチーフなので、何らかの形で続きを読んでみたい。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」