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『盛り合わせガール』鈴木小波 【日刊マンガガイド】

2015/04/26


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『盛り合わせガール』
鈴木小波 少年画報社 \575+税
(2015年3月30日発売)


昨年の『出落ちガール』に続く、作者2冊目の短編集である。
『盛り合わせガール』という題名にふわさわしく、アイディアも、キャラクター造形も、話の展開も、多種多様に盛り合わた全8本が収録されている。

地味で気弱な女王様が用意した毒リンゴを食べて倒れた10人の白雪姫“たち”! それを取り囲むのは総勢70人の小人たち! さあどうなる!?

と、インパクトMAXな発想の作品もあるが、そのうえできちんと主題をにじみ出させるストーリーテリングの手腕こそ感心のしどころだ。
上記の「白雪姫と70人の小人」も、ただ登場人物の数をいじって終わりではない。
巧みに視点をズラし続けて「物語の主人公とはいったいなんなのか」という点について固定観念をかきまわす、優れたメタ・メルヒェンとして展開していく。
優れた短編の描き手は優れたアイディアを思いつくに留まらず、そのアイディアを乗りこなし、力強い物語をつづるものだと確認できる。

筆者の個人的お気に入りは「君の声が聞こえない」。
特定の音域だけ聴こえない体質の少年が、その音域の声をもつため何を言っているのかまったく聴き取れない少女と学校の屋上で憩いの時間を共有する青春劇だ。
アイディア頼りに終わらずそれをきちんとストーリーにのせて転がしているという点ではとりわけ見事な1編なので、注目していただきたい。

なお、作者あとがきによると、収録作のなかには長編として描いてみたい作品も多いとのこと。将来なにかのかたちでそれが実現することを期待しておこう。
呪いで舌だけになった探偵の父を金魚蜂に入れて抱える車椅子の少女が怪異に挑む「安楽椅子の解呪探偵」などはまさに長編でも読んでみたいですね~。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。プリキュアはSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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