『手塚治虫文庫全集 シュマリ』第1巻
手塚治虫 講談社 \950+税
1997年5月14日、いわゆる「アイヌ新法(アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律)」が公布された。
日本の少数民族アイヌの文化を振興することと、国民への啓発を目的とした法律であり、アイヌを固有の民族として初めて法的に位置づけた法律とされている。
アイヌ文化の片鱗に触れることができる作品といえば、野田サトル『ゴールデンカムイ』が挙げられる。
2カ月連続でコミックス第1・2巻が発売されると、本サイトの3月ランキングでは2位、4月ランキングでは4位(ともにオトコ編)にランクイン。いまもっとも注目を集めている作品といっても過言ではないだろう。
とはいえ、この分野でもパイオニア的な存在がいて、それはやっぱり手塚治虫だ。
手塚治虫『シュマリ』の舞台となる時代は明治初頭。旗本の大月祥馬に妻を寝取られた主人公は、大月を追って北海道に渡る。やがてアイヌの人々と交流した主人公は、アッサブの村の長老(コタン)から「シュマリ(キツネ)」と名付けられるのであった。
そして、大月祥馬の行方を探るシュマリには、官軍の追及の手が迫る。五稜郭が陥落する際に、榎本武揚が三万両もの軍用金を隠し、そのありかを部下の体に刺青にして記したというのだ。シュマリはその「部下」に間違われてしまう。厳しい北の大地の自然、開拓民とアイヌの衝突、さらに元新撰組の土方歳三も絡み……と、北の大地を舞台に壮大な大河ドラマが繰り広げられていく。
また、ウェスタン(西部劇)のテイストも強く、明治初頭を舞台としていることからも、渡辺謙主演の映画『許されざる者』(李相日監督、クリント・イーストウッド監督・主演の同名作品の日本風リメイク)を副読本的に鑑賞すると、この手塚による開拓ロマン大作をより多角的に味わえることを付記しておきたい。
この作品でも、アイヌの村落が重要な役割を担っているのだ。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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