『スモーキーゴッドエクスプレス』第1巻
玄鉄絢 芳文社 \590+税
(2015年4月11日発売)
舞台は、ひとつの都市国家を内部に備えた巨大宇宙船。星間移民のため地球を飛びたち約700年、数十世代を重ねて宇宙を渡り、目的地への到着がそろそろ現実的な距離になってきたタイミングで事故が起きる。
隕石が貨物区画に衝突し、水をはじめ取り返しのつかない資源が大幅に失われてしまったのである。
そこで船内の政府がとった策は、事実上の口減らし。
船の住人たちのなかから一定数の人間を冷凍保存し、コンテナに乗せて切り離すのだ。あとで回収するとはいうが実際には不可能だろう。さあどうする、どうなる……と、いわゆる「冷たい方程式」シチュエーションを描いている。
特徴は、そのシチュエーションのなかで時間的・人口的にあるていどマージンが設定されている点だ。
政府は人々に対して「冷凍保存の指定を受けた者から1世帯に1人、免除される権利」を与える。そしてこの権利は、譲渡が可能。これがドラマの軸になる。
家族のいない人間に、権利をゆずってくれと頼みこむ者。
いま免除されている人間を殺して、浮いた人数で別の人間を救おうとする者。
その浮いた権利を売買して利益を得ようとする者……などなど。
事態が深刻ではあるが1分1秒の緊急ではないゆえに、個人の心情レベルから公の政治、経済のレベルまでで大小さまざまな波紋が広がりぶつかる様が見どころだ。
作者・玄鉄絢は近年、『少女セクト』、『星川銀座四丁目』といったガールズラブ分野で注目を集めているが、さかのぼれば1990年代後半にサイバーパンクSFマンガ『DANDY:LION』を描いた作家である。
単行本のコメントではSFではなくアクションマンガにしたいと書かれているが、支持読者の目からするとやはり玄鉄絢のSF志向健在なり、という形で喜ばしく見ておきたくなる。
第1巻では、冷凍処置されながらも難病が進行する親友を救うためテロ行為に身を投じた少女と、それを追う警察に協力する少女が並行して描かれていく。
ここから両者がどんな運命をたどるのか。資源を失った宇宙船は無事に目的地へ到着できるのか。
大いに続きが気になる。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7