『ふしぎの国のバード』第1巻
佐々大河 KADOKAWA \620+税
(2015年5月15日発売)
未知の世界を旅する旅行記は、それが現実の国であろうと空想の国であろうと、読むものの心を躍らせるものだ。
マルコ・ポーロの『世界の記述(いわゆる『東方見聞録』)』やイブン・バットゥータの『旅行記』はまさに歴史を動かしたし、スウィフトの『ガリバー旅行記』はいまだに世界中の読者を魅了し続ける。
同様に、日本を旅した外国人の手記や旅行記も、現代の我々からすると、興味深いことこのうえない。
戦国時代に日本を訪れた外国人宣教師の書簡、たとえばルイス・フロイスの『日本史』やアレッサンドロ・ヴァリニャーノの『日本巡察記』には、当時の日本の政治的情勢、文化、風俗習慣などがまざまざと描かれており(キリスト教的なバイアスはかかっているが)、外国人という「外の目」を通じることで、そこに新しい発見を見出すことができる。
佐々大河『ふしぎの国のバード』は、明治の初期に日本を訪れた女性冒険家イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を下敷きとしている。
まだ江戸時代の名残を多分に残す19世紀日本の風俗や習慣は、現代ではとうに失われたものばかり。明治11年の日本は、西洋人のバードさんだけでなく、21世紀のわれわれ読者にとっても「ふしぎの国」だ。その「逝きし世の面影」に、憧憬と愛惜と、ふしぎな居心地とを禁じえない。
物語はバードさんが横浜港に降り立ち、蝦夷のアイヌ集落を目指して旅行するために、通訳を募るところから始まる。
目新しいものを見つけたときに、目をキラキラさせて没頭するバードさんの、なんと無邪気でかわいらしいことか!
できるだけフラットに日本文化を観察しようとする彼女からは、かつて西洋人がアジア諸国に対峙した時のようなエスノセントリズム(自文化中心主義)は感じられない。カルチャーショックすら楽しんでいるようなバードさんに、通訳・伊藤鶴吉も徐々に心を開いていき、そこに絶妙なコンビ感が生み出されていく。
「未知なる日本」を開示していく量と順番が、物語を阻害するほど過剰ではなく、それでいて読者の興味を削ぐような過少さでもない。
第1話、横浜・港崎の衣紋坂市場のシークエンスを見るだけで、本作の非凡さは感じられるだろう。また、宿のみすぼらしさや、慎みより好奇心が勝りがちな物見高い宿客(=平均的日本人)の姿など、けっして好ましい部分だけを描いているわけではない点も印象的だ。
このあたりの塩梅は、とても新鋭とは思えない作者個人のセンスと、『乙嫁語り』でつちかわれた「ハルタ」編集部のコンビだからこそ、だろうか。
バードさんとともに、この冒険をぜひ楽しんでもらいたい。
私たちはこの「ふしぎの国」に、何を発見するのだろうか。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama