『乙嫁語り』第7巻
森薫 KADOKAWA/エンターブレイン \620+税
(2015年2月14日発売)
2014年にマンガ大賞を受賞し、すでに多くの読者から支持されている『乙嫁語り』の最新第7巻が発売された。
本作は、イギリス人ヘンリー・スミスの目を通じて、中央アジア各地の習慣や文化が描かれる。
いわばスミス版『東方見聞録』(マルコ・ポーロ)、あるいは『日本奥地紀行』(イザベラ・バード)といったところか。
スミスの歴訪した各地の民族衣装、食事、生活スタイルなどが精緻に描かれ、スミスが接した「さまざまな文化圏での嫁」の姿が「乙嫁(美しいお嫁さん)」として作中で語られていく。
中央アジアの各地に花開いた豊穣な文化が精緻に描かれるなか、その土地々々の慣習に翻弄される人々の人間ドラマが展開し、さながら逝きし世の面影を愛でるような名作である。
前巻までの段階で、スミスは中央アジアの地方都市からトルコのアンカラに向けての旅程にある。
アミル(第1の乙嫁)とカルルク夫妻の村を見聞し(1~2巻)、そこから西へ向かう途中、カラザの町ではユルタ(テント)で暮らす遊牧民のタラス(第2の乙嫁)と出会い(3巻)、そしてアラル海周辺のムナクの村では双子のライラとレイリ(第3の乙嫁)の嫁入りに立ちあう。
前巻6巻では再びアミルとカルルクの様子が語られたが、最新7巻ではカスピ海を南に迂回したスミスがペルシアの地を訪れる。
ペルシアでスミスが滞在する富豪の屋敷の妻こそが、今巻の主人公ともいえる第4の乙嫁・アニスだ。
トルキスタン系(現在の国ではカザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、クルグスタン)の文化圏からイラン・ペルシア系の文化圏に舞台が移り、これまでとはまた異なる文化様式が楽しめる。
なかでも今巻の物語の中核となるのが「姉妹妻」という風習だ。
富豪の妻アニスはなに不自由のない生活を送っていたが、町の風呂屋でシーリーンと出会い、姉妹妻の契りを結ぶ。
俗っぽい言い方をすれば「百合展開」なのだが、この「姉妹妻」の風習は実際にあったものらしい。
線が細くたおやかなアニスに対し、シーリーンは豊満で肉感的。対照的な2人がひかれあっていく様が見所だ。
風呂屋のシーンが多いこともあって、非常に裸のカットが多い巻で、巻末には風呂屋にいるアニスとシーリーンのグラビアまでついて、まことに眼福でございます。
人々の営みをして文化というのであれば、『乙嫁語り』は、まごうことなき「文化を愛でる」作品といえる。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama