『気分はもう戦争』
矢作俊彦(作) 大友克洋(画) \819+税
1950年7月18日、作家・矢作俊彦が誕生した。
ハードボイルド小説(『マイク・ハマーへ伝言』)から、社会・政治問題への風刺やパロディが縦横無尽に盛りこまれた超絶技巧作品(『あ・じゃ・ぱん!』)、さらには映画監督としても活躍する矢作俊彦は、加えてマンガ読みのあいだでも優れた原作者としてよく知られる存在ではないかと思う。
共作した漫画家は谷口ジロー、藤原カムイ、平野仁、落合尚之――そして大友克洋。
いまさら強調するのもはばかられるが、コアな大友ファンが傑作として挙げがちな『童夢』(1983年)“以前”の作品のひとつ、『気分はもう戦争』(1982年)の原作を担当したのがこの矢作俊彦だ。
ときは198X年、冷戦構造を背景に中ソ戦争が勃発した世界を舞台に、右翼(ハチマキ)、左翼(めがね)、アメリカ人傭兵(ボゥイ)が送る荒唐無稽な戦争放浪記を中心に、混乱した日本国内の様子を戯画的に描くショートストーリーや、作中キャラとして登場する漫画原作者・矢作と漫画家・大友によるハチャメチャ珍道中が入り乱れる社会派群像劇。
今となっては、そこかしこに詰めこまれた膨大な風刺やパロディを読み解くのは当時以上に難しいかもしれないが、それを抜きしても、精緻な画やマンガ的技巧、物語の密度とイメージの奔流に圧倒されることうけあい。
本日、矢作俊彦の誕生日には、このマンガ史上の傑作に酔うとともに、2006年に予告されたまま音沙汰のない映画化話の再始動を祈ろう。
<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
Twitter:@ill_critique
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