『池袋スティングレイ』第3巻
青山広美(作) 別天荒人(画) 講談社 \565+税
(2015年7月6日発売)
スティングレイ(Stingray)とは、魚のエイを意味する英語。
かつてシボレー・コルベット・スティングレイというアメ車があって、子ども心に「スティングレイってどういう意味なのだろう?」と疑問に思っていたのだが、あれはフロント部分の形がエイみたいだったから、そう名付けられたのだな、と積年の疑問が解消した次第。
さて、物語は主人公の赤井万太(あかい・まんた)が、銀色のエイがデザインされたスマホを拾ったところから始まる。画面に表示されたのは、謎めいたミッションと「30万×5倍」といった掛け金めいた数字。根っからのギャンブラーである万太は「男を鍛えよう! 初夏の一発肝試し!」を選んでエントリーしてみたのだが、出てきたミッションは暴力団の黒ベンツのエンブレムをGETせよ、という極悪なものであった。
ミッションをクリアして、賞金150万円を獲得した万太だが、キャバクラで豪遊していると「人間死刑台」の異名を持つ格闘技の達人・黒羽(くろは)が乱入してきた。どうやらスマホは黒羽のものだったようで、万太はボコボコにされ、スマホも奪われてしまう。ただし、黒羽にはゲームの元締めである「スティングレイ」を追及したい目的があり、赤井の博才を買っていたことから、2人は手を組むこととなる。
この2人に万太の同級生で究極の“スリルジャンキー”の白鳥まりあが加わって、3人は「チーム人間死刑台」として池袋を舞台に繰り出されるミッションに挑戦していくのである。
ミッションは、「アイドルにステージ上でキスしろ」という腕力系のものから、「池袋の心臓を探せ」というクイズめいたものまで様々である。『カイジ』シリーズや甲斐谷忍『LIAR GAME』などのギャンブル系マンガでは、主人公たちは敗退すると多額の借金を背負うなど、非常に厳しい状況に追いこまれるわけだが「チーム人間死刑台」の3人は悲壮感を持たず、次々ミッションにトライしていく。
このあたりのノリは、今流行の「リアル脱出ゲーム」やスマホのアプリゲームを(ネット上の)仲間とクリアしていく感覚に近いのだと思う。先行のギャンブル系マンガのような、ヒリヒリするようなドラマを想定していると肩すかしを食らうだろう。
全3巻での完結、となったこともあって、万太たちのチームとライバルとの対決や万太が到達した「深淵の閃き」(ディープ・フラッシュ)という能力に関して、物語がふくらんでいかなかったのは残念である。
とくに後者は、外見上はヤマ勘にしか見えないのだが、じつは人間が五感で受け取る1日あたり1千万とも2千万ともいわれる情報量を分析して判断を下していた、という途方もない能力である。
全能ともいえる「ディープ・フラッシュ」を持ちながらも、それが時に乱されたり、裏をかかれたり(その結果、万太自身が自分の能力に懐疑を抱くようになったりする)など――もっと様々な広がりを持たせることができたのではないかと思ったりもする。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。