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『天そぞろ』第1巻 あかほり悟(作) 北崎拓(画) 【日刊マンガガイド】

2015/10/25


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『天そぞろ』


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『天そぞろ』第1巻
あかほり悟(作) 北崎拓(画) 小学館 ¥552+税
(2015年9月30日発売)


黒船来航から8年後、1860(安政7)年の江戸。
腕はいいが売れない浮世絵師の源吾は、絵にかける熱い気持ちを心の奥底に秘めつつも、本気になれる「何か」を見つけられず、ふらふらと日々を過ごす「そぞろもん」。
しかし、町でうわさの謎の美女・楓との出会いにより、彼の命は時代の猛火へと投げこまれ、激しい輝きを放ち始める……。

『サクラ大戦』シリーズをはじめ、数々の大ヒット作で知られるシナリオライター・作家のあかほりさとる(本作では「あかほり悟」名義)。『なぎさMe公認』『クピドの悪戯』シリーズなど、こちらもヒット作を多々世に送り出してきた漫画家の北崎拓。同世代の人気作家2人がはじめてタッグを組んで描き出す、本格的歴史ロマンの単行本がついに刊行された。

じつは不思議な力によって江戸へと飛ばされた現代人である楓は、ただひとり見知らぬ時代に追いやられた不安と、いっぽうで、歴史の重要な局面に自分が立ち会っていることに対する喜びのあいだで、自分でも処理しきれない複雑な感情を抱えている。
そんな楓に翻弄され、触発されながら、源吾は「自分の絵」を見つけていく。2人の単純に割り切れない関係性と、その周囲で起こる歴史的事件、意外な人物との遭遇(この巻では、のちに新選組の重要メンバーとなるあの男が……)が、物語の大きな軸となっている。

くわえて、もうひとつ大きな要素が、「浮世絵」という存在へのまなざしだ。
大衆からの支持を集めつつも、お上の都合には大いに振り回され、いずれは芸術として扱われるが、そのとき浮世絵を生み出していた当人たちは、そんな評価はつゆ知らず。
浮世絵師ひとりの才能だけでは成り立たず、一人ひとりすばらしい技術を持つ職人たちの力が結集することで作り上げられる。これは、日本のマンガやアニメといった表現と、通ずるところがある。

壮大な歴史ロマンであり、同時に、著者たちにとっては、自分たちの生き様、プライドを刻みつけるような作品なのではないだろうか。

物語の向かう先に、どんな結末が待っているのか。そこには日本の歴史を、サブカルチャーを俯瞰する、大きな視点が示される予感がする。
今後の展開にも、大いに期待したい。



<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei

単行本情報

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