日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『花とアリス殺人事件』
『花とアリス殺人事件』
岩井俊二(作) 道満晴明(画) 小学館 ¥630+税
(2015年10月9日発売)
本作は、岩井俊二監督による実写映画『花とアリス』(WEB短編:2003年/劇場長編:2004年)の前日譚を描いたアニメーション映画『花とアリス 殺人事件』(2015年)のコミカライズである。
とはいえ単に原作をなぞったコミカライズというわけではなく、大枠の設定を引き継いでいるだけで、なかばオリジナルの道満晴明作品だと考えたほうが収まりがよい――いや、より率直に言ってしまえば、本作が照らし出すのは、『花とアリス 殺人事件』がそもそも道満晴明的な作品であったという転倒である。
中学の教室のどまんなかに結界が描いてあるかと思うと、地獄から舞い戻ってきた(魔界から蘇ってきた)と自称する中学生女子・陸奥睦美が不気味な呪文を唱えはじめ、さらには作品タイトルにもなっている学校で起きたという殺人事件の内容が「ユダが4人のユダに殺された」というものだと明かされていく。
そんな荒唐無稽な魔術的世界で、はた迷惑な女の子がはた迷惑な女の子に出会い、とってもはた迷惑でかわいらしい冒険をする。
もちろん原作となるアニメ映画には、もっと多様な人々が登場するし、道満晴明的ではないようなエピソードも描かれてはいるだろう。
しかし本作のように、原作のなかから学校にまつわるエピソードだけを積み重ねて――そしてキットカットのようにチョコレートでコーティングして――みると、そこには道満晴明ワールドと呼ぶしかない幻想的で甘い物語が広がっていたことが明らかになる。
つまり本作は、花とアリスという女の子たちの出会いの物語であると同時に――岩井俊二ファンにとっての道満晴明入門としても、道満晴明ファンにとっての岩井俊二入門としても機能しうるだろう――特異なアーティスト2人が運命的な出会いを果たした、その事件現場として目撃されるべきだろう。
<文・高瀬司>
批評ZINE『Merca』(アニメルカ×マンガルカ×ジャズメルカ)主宰。アニメ/マンガ論を『ユリイカ』などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
TwitterID:@ill_critique
Merca公式ブログ