日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『龍の進撃』
『龍の進撃 山口正人、魂の任侠劇画レクイエム』
山口正人 日本文芸社 ¥620+税
(2015年9月28日発売)
「別冊漫画ゴラク」で好評を博した山口正人『任侠まんが道』が帰ってきた!
本作『龍の進撃』は、『任侠まんが道』をはじめとする山口正人の短編・任侠劇画を選りあつめたアンソロジーである。なかでも目玉となるのが、かつて関東一の武闘派ヤクザとして鳴らした「涙の龍」こと大門寺龍一が、足抜け後に漫画家を目指す『任侠まんが道』シリーズだ。
「別冊漫画ゴラク」に掲載された3本にくわえ、単行本描きおろしの最終章が収録されている。
山口正人は任侠マンガを得意とし、ヒット作には『修羅がゆく』などがある。
しかし、現実問題として、いま任侠マンガの置かれている状況は芳しくない。暴対法施行以降、任侠が経済ヤクザ化し、また反社会的勢力として従前以上に敬遠されるようになると、王道のヤクザマンガはリアリティと読者の支持を失い、もはや「ヤクザ」はファンタジーとしてしか描けなくなってきている。ヤクザマンガには「プラス・アルファ」が求められる時代なのだ。
そんな「反ヤクザ」的な風潮が強まるなかで、山口正人は任侠マンガの生き残る道を模索し続け、そのなかから『任侠沈没』を生み出した。日本列島が未曾有の大地震に襲われ、壊滅的なディストピアとなった世界で、ヤクザがサバイバルする怪作だ。この作品に登場したキャラのスピンオフというか、パラレル的な扱いが、『任侠まんが道』である。
また山口は、『若頭・残波』という作品では、「ヤクザの自分探し」というテーマを掲げた。
天才的な極道がなぜか自分の天職はヤクザではないと思いこみ、訪問介護やアニマルセラピーなどに転職をはかろうとして失敗するコメディだが、キャッチコピーの「極道(ここ)ではないどこかへ」が振るっていた。
反社会的勢力への世間の厳しい眼差し、ヤクザのセカンドキャリア&自分探し、昨今の流行の「漫画家マンガ」といった要素が絡みあい、『任侠まんが道』がある。
作中に登場する「別冊漫画ゴラク」編集者の風野股三郎、主人公がアシスタントに訪れる大作家・山口正入などなど、エッジの効いたキャラも登場し、「まんが道=修羅の道」を邁進する。
描きおろしの最終章では、龍は北極点を目指すことになったり、ひたすら「斜め上」を突き進んでくれる。さらに衝撃のラストが! この推進力に身を委ねたら、どこに連れていかれるかわかったもんじゃないッ!!
なお、巻末には『江戸前の旬』の著者・さとう輝との対談が収録されている。対談では各話の制作秘話が語られ、そこにもまた「まんが道」エッセンスが漂う。
この作品はまさに、任侠マンガに生きた山口正人の、己に対するレクイエムなのだ。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama