日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『色は匂へど』
『色は匂へど』上巻
よしだもろへ 講談社 ¥581+税
(2015年11月6日発売)
覚悟して手にとったほうがいい。
アニメ化もされた、キュートなラブ・ストーリー『いなり、こんこん、恋いろは。』の著者・よしだもろへの新作ということで、うっかり手に取ってしまうと、痛い目を見る。
いじめが理由で転校し、心に負った深い傷を隠しながら、怯えるように日々を過ごしていた高校生・清澄純(きよすみ・じゅん)。
そんな彼の救いとなったのは、転任してきた女教師・天ヶ瀬(あまがせ)いろは。自然体な優しさを純に向ける彼女もまた、その身と心に、消えない傷を抱えていた。2人は、教師と生徒の一線を守りながら、傷ついた小動物が身を寄せ合うようにして、互いを支えあおうとする。しかし、そんな2人を、どす黒い悪意の持ち主が取り巻く……。
この「悪意」の描写が、とてつもなくいやらしい。
以前の作品でも、人の心の奥底にある暗い部分に目を向けてきた著者だが、この作品の描写は、ひとつリミッターが解除されている感がある。
全編に漂う不穏な空気は、読んでいて息苦しさを覚えるほどだ。
繰り返す。覚悟して手にとった方がいい。だが、手にとって、損はない。
なお、単行本には、描きおろし読み切り「穢れひとつ無い」も収録。こちらは教師と教え子のすれ違いを描いたほろ苦いBL作品で、小品ながらも読みごたえがある。
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei