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『古屋兎丸初期短篇集 禁じられた遊び』 古屋兎丸 【日刊マンガガイド】

2015/11/08


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『禁じられた遊び』


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『古屋兎丸初期短篇集 禁じられた遊び』
古屋兎丸 イースト・プレス ¥1,100+税
(2015年10月17日発売)


素朴に響くアングラ。
優しい残酷。
美しい醜悪。
ほほえましい悲しみ。
透きとおるようなブラックさ。

普通なら矛盾するような印象や気持ちがするりと差しこんでくる不思議な読み味で支持される、マンガ界のグランギニョルこと古屋兎丸先生は、今年でもうデビュー20年。

この節目にあたって、古屋氏の初期作品集『禁じられた遊び』が刊行された。
1990年代後半から2000年代前中半までの9編プラス、古屋氏が15歳のとき漫画研究会の同人誌に寄せた1編で構成されている。
各短編は熱心なファンには既読のものも多いと思われるが、合い間にその作品にまつわる身の上話や影響元を語るコメントがはさまれていたり、古屋氏が少年時代に「少年キング」などへ雑誌投稿した絵のスクラップが載っていたりとお得感は十分。

著者ご当人の解説をふまえて読んだ際、あらためてわかるのは、古屋氏が映画と深い縁を結んでいる側面だ。

インテリ中年が幼い娘の友人に覚えた情慕に密かに狂っていく「アゲハ蝶」は『ベニスに死す』と『ロリータ』の現代版リミックス。
一対一の濃密で陰湿ないじめで結びついていた少女たちの上下関係が、いじめられていた少女の破瓜を機に逆転する「ユメカナ」は古屋氏が高校時代にハマったダリオ・アルジェント監督映画の名残り。
錬金術師の師弟が厳粛に積み重ねてきた仕事が戦火のもとで瓦解する「月の書」は『薔薇の名前』の舞台である修道院の空気感。

これらはいずれも映画からの影響がダイレクトにではなく、古屋氏の人生のフィルターを通して合成や変形しているところがポイントだろう。

映画といえば、古屋氏の『ライチ☆光クラブ』を原作とする実写映画が今年の冬に公開を控えている。
これはもともと劇団「東京グランギニョル」の演目をベースにマンガ化したものなので、演劇→マンガ→映画というメディアの変遷をたどったことになる。

映画と縁深い古屋氏がみずからのフィルターから映画へと送りかえしたものを見届けてみたい。
それまでこの短編集を何度も読み返しましょう。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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