日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『らせんの迷宮 -遺伝子捜査-』
『らせんの迷宮 -遺伝子捜査-』第2巻
夏緑(作) 菊田洋之(画) 小学館 ¥552+税
(2015年11月30日発売)
DNA鑑定によって犯人が逮捕された。
DNA鑑定の結果、親子関係が否定された。
このように最近話題になることが多い、DNA鑑定という言葉だが、中身をきちんと理解している人は少ないのではないかと思う。
本作『らせんの迷宮 ―遺伝子捜査―』は、11月に刊行された第2巻で完結したが、知っているようで知らない「DNA鑑定」に対する格好のガイドとなる作品である。
警視庁覚山(かくさん)署の刑事・安堂源次は10年前の転落死に疑問を抱く。それは仰向けに倒れた被害者の胸ポケットのハンカチに血がついているという不自然な点があったからだ。
殺しだと直感した安堂は、ハンカチを科学捜査研究所(科捜研)に持ちこむが、再捜査にさく余力がないと断られる。
そこで科捜研は「DNAの専門家」の神保准教授なる人物を紹介する。「天才すぎて少し変わり者」という言葉に不安を覚えつつ、安藤は神保を聖ヘリックス医科大学に訪ねるのであった。
神保が、安堂に対してDNAのことを解説しつつ物語が進んでいくのは“情報マンガ”の常道だが、こうした物語の展開を通じて読者もDNAの世界へと引きこまれていくのだ。
DNAは、指紋のようにひとりずつ違ううえに、全身どこからでも同じものが採れる。環境や加齢で変化しないため“究極の個人情報”といえる。それゆえに犯罪捜査や親子鑑定においては決定的な証拠となるのである。
安堂が疑問を抱いていた転落死も、ハンカチの血痕から検出されたDNAがきっかけで、真犯人が突き止められた。たとえ10年経過した遺留品でも、DNA鑑定を用いれば犯人が追及できるのだ。
神保は、安堂刑事や科捜研の美女・乱堂蘭とともに、DNA鑑定を武器に数々の未解決事件へと挑んでいく。
そうした捜査の過程で、「変わり者」の神保が安堂に友情を感じるようになる。だんだんと人間味を出してくる、神保の変貌ぶりもまた楽しみどころである。
犯罪検挙などには役に立つDNA情報だが、“究極の個人情報”だけに、その保護にも配慮が必要だ。
しかし、そのはずが痴漢の犯人を探すため、500人ものDNAを集めて永久保存されているという事例があったりするのだ。単なるDNA鑑定礼賛に終わらず、その課題にも目を配っている点が、本作の評価すべきところと言えよう。
ちなみに、国家によりDNAがデータベース化された近未来を描いたのが、東野圭吾『プラチナデータ』である。
『プラチナデータ』でテーマになっていたのも、個人のDNAデータが管理されることの恐怖であった。本作を読んで、DNAに興味がわいたら、手を伸ばしてほしい(ちなみに、『プラチナデータ』は、二宮和也主演により2013年に映画化もされている)。
最後に著者紹介をしておこう。
原作者の夏緑は『獣医ドリトル』(ちくやまきよし・画)などを手がけたベテランの漫画原作者・小説家であるが、京都大学大学院理学研究科博士課程を修了したバリバリの理系女子で、遺伝子に関する学術書もある。
作画を担当した菊田洋之は、1991年『熱血! 貫とシンペイ』でデビュー、代表作としてアニメ化もされた体操マンガ『ガンバ!Fly high』(森末慎二・作)がある。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「名探偵コナンMOOK 探偵女子」(小学館)にコラムを執筆。現在発売中の「ミステリマガジン」2016年1月号(早川書房)にミステリコミックレビューが掲載。同じく現在発売中の「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)にてミステリコミックの年間総括記事等を担当。