日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『はじめてのお泊まり 水瀬るるう短編集』
『はじめてのお泊まり 水瀬るるう短編集』
水瀬るるう 芳文社 ¥619+税
(2016年2月5日発売)
アニメ化された『大家さんは思春期!』の著者・水瀬るるうは、健全と不健全の危ういバランスを描くのが本当にうまい。
『大家さんは思春期!』なんて、中学生になったばっかりの少女が主人公の部屋に泊まったり、水商売のお姉さんが同じアパートにいたりと、それどう転んでもエロ展開待ったなしですよね、という状況。
最後の一線で踏みとどまり、おかしなことがいっさい起きない。流れが不自然ではないので、読んでいて気にならない。
キャラクターたちが、「純朴」さで共感できる、でもピュアすぎるわけでもない、微妙なさじ加減で描かれている。
表題作「はじめてのお泊まり」は、会社の飲み会のあと、いっしょに飲みませんかと誘った、奥手男性の話。
つい女性を家に誘ったはいいものの、本人はお持ち帰りという意識が皆無で、誤解されたのではないかと大あせり。ついつい彼女の体に目がいくも、そらしてしまう。
成人マンガだったらセックス待ったなし。
ところが、健全なのだ。
健全=清く正しい、という意味ではなく、自分の義がしっかりしている、ということ。
人に恋するとはどういうことなのか。相手にどう接したいのか。
出会ったばかりの、真摯な男女は、何を選択するのかを、短いなかにしっかり描いている。
ピュアばかりじゃなく、下心はしっかりお互いあるのが、じつにいい。
中学時代からの仲よしの女の子を好きになった、女子大生の話。
いつも店の前を通りすぎる黒髪の少女に、一途な恋をする青年の話。
シチュエーションはかなりドキドキするきわどいものが多いが、自分のなかで整理して踏みとどまれるキャラクターたちには、とても好感が持てる。
ひとつの短編だけ、一線こえたか!? というのがあったが、後日譚的なオチで、やっぱり健全だったなぁとほっこり。
激しい恋愛ではなく、欲望はあるけど不器用でまじめな人間関係。
そんなキャラたちを見ていると、人生答えは後まわしでもいいんだよなあ、とほっとさせられる。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」