365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
5月26日に甲子園にラッキーゾーンが生まれた日。本日読むべきマンガは……。
『ドカベン』第31巻
水島新司 秋田書店 ¥419+税
かつて、阪神甲子園球場に「ラッキーゾーン」というものが存在していたことはご存じだろうか?
もう、撤去されてから20年以上も経っているので、若い世代の読者にはまったくピンとこないかもしれないが、かつては甲子園球場は外野が広すぎてホームラン率が低かったため、試合の注目度を高める方策として外野の一部にフェンスを設置して外野を狭くし、ホームランが出やすくされていた時期があった。
そして、そのフェンスに囲まれたエリアは「ラッキーゾーン」と呼ばれていたのである。
1947年の本日は、その日本初のラッキーゾーンが甲子園球場に造られた日。
なお、のちに阪急西宮球場や明治神宮野球場などにも同様にラッキーゾーンが設けられたが、選手の身体能力の向上や、あるいはボールなどの改良によって年々ホームランの数は増えていったため、やがてラッキーゾーンの存在意義は衰退。
甲子園球場のものは1991年のシーズンを最後に廃止され、同年の12月5日に撤去された。
ラッキーゾーンの存在によってプロ野球・高校野球ともに現実の甲子園球場での試合にも様々なドラマが生まれたが、マンガの世界において忘れられないラッキーゾーンをめぐる攻防といえば、『ドカベン』チャンピオンコミックス版第31巻で描かれた明訓高校と土佐丸高校の試合。
山田太郎封じに特化した異様な風体のライバル・犬神了の存在などによって、土佐丸高校のリードのまま迎えた最終回。ランナーをひとり置いた状態で、明訓高校の最後のバッターとなったのは、数々の秘打で記憶に残る曲者・殿馬。
その殿馬の打球は高々と外野へ打ち上げられ、さんざん明訓を苦しめた犬神了のグラブに収まって万事休す……かと思いきや、キャッチした体ごとラッキーゾーンのフェンスを越えてしまい、かろうじてスパイクの金具だけが引っかかった形で宙ぶらりんに。犬神了の体が完全に落ちてしまえば明訓のサヨナラ勝利となる、文字どおりに“クリフハンガー”の試合が展開される。
そして最終的には犬神了はラッキーゾーンに落下してしまい、「秘打 円舞曲・別れ」と命名されたサヨナラツーランによって、明訓高校は決勝戦へと進出するのでありました。
野球マンガにそんな展開を持ちこむとは、どう考えても水島新司は天才としか思えないのですが、じつはこれ、現実のルールではホームランじゃないんですね。
これをふまえて、『ドカベン スーパースターズ編』第14巻で描かれた、四国アイアンドッグス(名前からもわかるとおり、土佐丸高校ゆかりの選手が多数所属)と東京スーパースターズの試合でこの一件がばっちりフォローされている。
こちらでは、犬飼武蔵の打球を義経光が空中で捕球、そのままスタンド内に落下。
判定の結果はアウトなのだが、アイアンドッグスの選手全員がホームランだと思いこんでいるのが、この犬神了の顛末を知っているファンには愉快でたまりません。
さらに、審判員の説明によって「1978年までは捕球しても身体がスタンドに落ちるとホームランだったが、その後ルール改正された」ことが(少なくとも水島新司の世界においては)判明!
そんなフォローを考えつくとは……やっぱり水島新司は天才です!!
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。