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『はじまりのはる』第3巻 端野洋子 【日刊マンガガイド】

2016/06/13


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『はじまりのはる』


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『はじまりのはる』 第3巻
端野洋子 講談社 ¥680+税
(2016年5月23日発売)


東日本大震災以降の福島について、福島在住の著者が自ら体験し見聞きした事実を踏まえて描く、話題のシリーズ第3巻。

福島県に住むサラリーマンの戒は、震災で行方不明になった親戚の捜索がきっかけで幼なじみの睛(ひとみ)と再会。離婚した母親の思い出を避けて、長らく訪れていなかった地元に足を向けた戒は、変わり果てた故郷を目にし、自分が何を失ったかを知る……。

自らも被災し、放射能の脅威にさらされながらも、必死で救出作業をする地元民の「思うように助けられなかった」という憤りや苦しみ。そんな現地の状況も知らず、テレビやネットで見た情報だけを鵜呑みにしてクレームを入れたり、反原発運動に利用しようと土足で立ち入ってくる「善意の人々」との温度差。「誰かを亡くした それが共通点だったとしても土地や家や事情の違いで易々とはわからない」という断絶……。

ニュースからはこぼれ落ちる、実際にその場に何度も足を運んだ人しか知りえない「福島の現実」の数々は、「なにかしたい」と思いながらも、実際にはなにもできず、東京でただただ放射能におびえる日々を過ごしていた者にとっては、グサッと突き刺さるものだらけで、正直、読み進めるのが辛すぎる! 

「正しいことをしようとすると基本鈍感になるからね 誰でも」
「こういう怒り方をしろって指示される感じだろ ああいうのに限んねーけど 俺の感情は俺のもんだ」

他人の痛みも本音も、どうすることが正解なのかも真の意味ではだれにもわからない――。
そんな非情な現実を見つめながらも、それでも何かせずにはいられない彼らの姿が、読み終わったあともボディーブローのように深く、重くきいてくる。

マンガとしてうんぬん以前に、知っておくべき現実がここにある。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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