『あの日からのマンガ』
しりあがり寿 KADOKAWA \650+税
3.11──東日本大震災の起こった日として、永く記憶される日だろう。
地震が発生したのは2011年3月11日14時46分18秒。最大震度は宮城県栗原市で観測された震度7。さらに宮城や福島などの多くの地域で震度6強を観測。東京都内の多くの地域でも震度5強となった。
さらに福島第一原発で起きた大規模な事故は、その後も人々の生活に影を落とすことになる。
4年が過ぎた現在でもいまだ避難所で生活する人も少なくなく、原発事故に至っては、問題は山積みのままと言っていいだろう。
もちろん復興も進み、精神的に傷ついた人の心も癒やされてきてはいるのだが、震災はまだまだ終わってはいない。
あまりに大きな出来事で、あの日から「日常」そのものが変化を余儀なくされたため、「3.11」によってマンガの創作も多大な影響を受けている。
直接的に震災を描いた作品もあれば、震災がきっかけであらためて日々の様々なことを見つめ直したために生まれた作品もある。そんな数々の作品のなかからひとつピックアップしたいのが、しりあがり寿による『あの日からのマンガ』だ。
タイトルの「あの日」とは、震災の起きた2011年3月11日のこと。単行本には、震災当時に新聞連載されていた『地球防衛家のヒトビト』と、震災を題材にした短編作品が数本収録されている。
しかし、このマンガの特異なところは、3.11をダイレクトに描いているにもかかわらず、肩にまったく力が入っていないように見えることだ。
もともと、しりあがり寿の作品といえば、死ぬほど笑えるギャグマンガも多々描きつつ、その根底に流れる、ある種の“あきらめ”にも似た独特の死生観が特徴として挙げられるだろう。その持ち味は、本作でも遺憾なく発揮されている。
『地球防衛家のヒトビト』では、主に東京で暮らす人々の視線ではあるが、3月、4月、5月と、時が経つにつれて少しずつ変わっていく日常の空気感を、リアルに、かつ脱力した視点で4コママンガに落とし込んだもの。「防衛隊なら被災地で何かやらなくちゃ」と、実際に作者本人がボランティアに訪れたものの、思いのほか役に立つことができず、むしろこちらが元気をもらって帰ってくるといった体験も、飾ることなくそのまま描かれている。
短編作品のほうも、原発や放射性物質が擬人化されたシニカルな作品や、生き方を変えざるをえないことを受け入れる様を比喩的に描くものなど、どれも「しりあがり寿ならでは」と言えるテイストに仕上がっている。
東日本大震災については、皆それぞれ思うところも多いことだろう。
しかし何にせよ、「起こってしまったことは受け入れる」というシンプルなことを、あらためて『あの日からのマンガ』は思い出させてくれた。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。