『そばもん ニッポン蕎麦行脚』第15巻
山本おさむ 小学館 \596
(2014年2月28日)
しみじみと、うまい。
字面は「美味い」と「上手い」でまた異なるが、そばという食べ物と本作の魅力は相通じるもの。うまみも深みもありながら、気負いなく手にできるのも共通項だ。
本作の主人公は、名人である祖父から江戸そばの技術をすべて伝授された一人者ながら、自由にそばを打ちたいと車で放浪の日々を送る矢代稜。行く先々でさまざまな人、そばと出会うことでドラマが展開されていく。
それこそそばにたとえるなら、すご腕ながら偉ぶることなく、どこか抜けている稜のキャラクターに「のどごしのよさ」があって、取材に基づいたハウツーや雑学が見事な「ダシ」になっている。揚げ置きしてこそうまい天ぷらそば(第1巻)など、読めば腑に落ち、腹も減るみと間違いなし。
マンガは、匂いや味までは伝えられないもの。しかし人間ドラマの名手・山本おさむは、エピソードのうまみで、そばと物語の深みまで引き出す。
13巻で描かれた『トライアウト』は、野球選手のドラマとしても秀逸だ。
最新15刊には、兄弟誌「スピリッツ」連載の『美味しんぼ』の「福島の真実編」同様に反響を呼んだ、「福島編」も収録(小学館のマンガ情報サイト「コミスン」に、丸々1話が試し読み無料掲載されている)。
会津そばをめぐる物語で、凌は福島産の食品にどんな答えを出すのか。それは『美味しんぼ』とはまた異なる、シビアにして納得のもの。
作品の味わいはそのままに、最新刊はさらにコシとキレが利いている。
好みはあっても、またアレルギーがある人はいても、そばという食べ物は身近で、沁みるもの。本作もまさにそんな一作だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が6月5日に発売に。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。