『かっこいいスキヤキ』
泉昌之 扶桑社 637
1963年6月15日は米国有名音楽誌「ビルボード」の週間チャートにおいて、日本人歌手・坂本九の『SUKIYAKI』(邦題「上を向いて歩こう」)が1位を獲得した日。
これは、英語以外の言語で歌われた曲としては史上2度目であり、アジア圏からの同チャートランクインとしては史上初となる快挙だったそうだ。
「ああ、古い歌でしょ」と思う方もいるかもしれないが、そんなことはない。坂本九の独特の歌唱法や、永六輔による胸にしみる歌詞など、そのすばらしさはいささかも色褪せておらず、世界中の様々なアーティストが幾度となくカバーしている正真正銘の名曲なのだ。そんな今でもかっこいい名曲……いや「かっこいいSUKIYAKI」の記念日に読みたいマンガといえば、泉昌之『かっこいいスキヤキ』(扶桑社)以外にないだろう! ……というのは、さすがにちょっと強引だろうか。
さて、『食の軍師』などで知られる異端のグルメ漫画家・泉昌之の初短編集でもある本作は、「偏執的なほど自分ルールにこだわった人物たちの食事風景」という著者独自の作家性が早くも発揮されている。なかでも表題のもととなった短編「最後の晩餐」は、憧れの食事=スキヤキに対する美意識に縛られ、自滅していく主人公の様を喜劇的に描いた傑作だ。
いつの時代も無視できない「スキヤキ」。こんな日は、かつての名曲を聞きながらマンガを読むのも悪くないだろう。もちろん夕飯の献立をスキヤキにしてもいいのだ。
<文・一ノ瀬謹和>
涼しい部屋での読書を何よりも好む、もやし系ライター。マンガ以外では特撮ヒーロー関連の書籍で執筆することも。好きな怪獣戦艦はキングジョーグ。