『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』第2巻
竜田一人 講談社 \580+税
(2015年2月15日発売)
タイトルそのまま、福島第一原発で働いた経験をドキュメンタリーとして描いた話題作の第2巻。
つい先日も高濃度汚染水漏れの隠蔽が問題になるなど、いぜん予断を許さない状況の「いちえふ」だが、本作にはスキャンダラスな内部告発的要素はいっさいなく、現場の末端の作業員=著者の日常が淡々と記されている。
保護服で作業中の車の乗り方や、トイレの仕方(!)、生活拠点となるいわきでの賃貸物件や交通といった生活事情まで、現場に出入りしている者しか知りえない具体的でリアリティあふれる情報には、ハッとさせられずにいられない。
いまだに「福島」というだけでものものしい危険なイメージを持つ人も多いだろうが、そこには「生身の人間の日常の営み」があるのだ。
ともすれば机上の空論におちいりがちな「原発の是非」にはあえて言及せず、被爆管理をはじめとするルールにのっとって、淡々と自らの業務をこなす著者を、ヒーロー扱いしたり、あるいは健康状態を心配したり、偏った情報や噂をもとに過剰反応を示すマスメディア(著者は第1巻発売後、海外を含む膨大なマスメディアからの取材を受けたという)の姿には苦笑。
様々な情報が氾濫する時代だからこそ、東電/反原発といったポジション関係なく、情報をうのみにすることの危険性を再認せずにいられない。
仕事後は、サウナや呑みにいったり、ライブハウスで趣味の弾き語りライブをするなど、福島での生活を楽しみ、地元に根ざしたあたたかな交友を広げてゆく著者の姿には、「福島を食べよう」といったたぐいのキャンペーンより、よっぽど「未来」や「復興」が感じられる。
被爆許容量の問題もあるだろうが、著者にはぜひとも「いちえふ」収束まで見届け、描き残していただきたい……と切望せずにいられない。3.11以降を生きる人々、必読のドキュメンタリーだ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69