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10月26日は原子力の日 『深海魚』を読もう!【きょうのマンガ】

2014/10/26


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『深海魚』
勝又進 青林工藝舎 \900+税


1956年の10月26日、日本はIAEA(国際原子力機関)憲章に調印、加盟した。さらに7年後の1963年10月26日、茨城県東海村の日本原子力研究所において日本初となる原子力発電に成功。
この2つの理由から、日本政府は1964年に10月26日を「原子力の日」と制定した。日本の原子力史を語るうえで、絶対にはずせない重要な日付が10月26日なのだ。

話を現在に戻そう。「3.11」からすでに3年7カ月の月日が流れた。
『このマンガがすごい!WEB』の月間アンケートでも話題となった『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』は、東日本大震災後に福島第一原子力発電所の作業員として働いた竜田一人によるルポルタージュだ。

この『いちえふ』から遡ること30年前、1984年の「COMICばく」(日本文芸社)に掲載された勝又進の短編「深海魚」(作品集『深海魚』に収録)にも、原発で働く最下層労働の実態が描かれている。
「放射能に色がついていたら、俺なんてあばたもいいところだな」とか「傷口から放射能が入ったらコトだから、タワシでこすれっていいやがんの」なんていう台詞のやりとりに背中が寒くなる。
同じく作品集『深海魚』に掲載されている「デビルフィッシュ(蛸)」(1989年発表)も、原発内での作業を描いたものだ。

作者の勝又はもともと東京教育大学(筑波大学の前身)の大学院で原子核物理を専攻。今回紹介した2本の短編は実際に原発労働者の現場を取材して描かれたものである。
ただし『いちえふ』との決定的な違いは、この2作があくまでフィクションであり、原発現場の実情を描きつつも、勝又の印象を通したファンタジー的側面を有していることだ。「深海魚」はラブホテルのベッドの上で突っ伏す原発作業員の全身に、桜の花が散っているという鮮烈な描写で幕を閉じている。

この2作を読むと80年代の時点で原発での作業環境に問題点が多々あったのだということがうかがい知れるが、それだけでなく、深い余韻を残す叙情的な傑作短編としても強くオススメしたい。
巻末に収録されている阿部幸弘(精神科医)の解説も含めて、秋の夜長にじっくりと堪能してほしい作品集だ。



<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」

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