日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『この「ホラー」マンガが怖い!』
『このマンガがすごい!comics この「ホラー」マンガが怖い!』
中山昌亮、阿部共実、伊藤潤二、ひよどり祥子、呪みちる、森野達弥、
うぐいす祥子、永井豪とダイナミックプロ、日野日出志 宝島社 ¥590+税
(2016年6月17日発売)
今年も暑い夏が来る。
うだる熱気に身も心もくたびれて、おまけに夜は寝苦しい。
そんな季節にうってつけなのは?
そう、体感温度をゾゾッと引き下げてくれるホラー作品ですね。
夏の訪れを手前に迎えるちょうどいいタイミングで、ホラーマンガの秀作をよりすぐったアンソロジーが「このマンガがすごい!」のマンガ刊行レーベルから出る運びとなった。
題して『このマンガがすごい!comics この「ホラー」マンガが怖い! 』。
物理的な苦痛。精神的な悶え。
あるいは正体のはっきりしないモヤモヤ感まで、様々な切り口で「こわさ」を感じさせる選集である。
水木プロ出身で故・水木しげるの正当後継者と名高い森野達弥が自動車専門誌で連載した『怪奇タクシー』の一編、カップルの乗った車を追突して回るモンスターカーの謎を追う「カーブの人喰い自動車」は現代怪談の正統派。
若い娘に惚れこみ強引に結婚した老学者が生死の境を越えて執着してくる「死なないで」は、妻が口にするタイトルの意味をひとひねりする構成が、呪みちるの重厚な画風で超心理的な泥沼を出現させる。
親は子どもを大事に守り育てるもの、という思いこみがとつぜん破綻した世界をつきつける永井豪「ススムちゃん大ショック」はまさに大ショックな問題作。
悪魔や超人を出さずして永井先生のバイオレンスホラーの真髄が炸裂する。
日野日出志が自身を主人公に家族や友人への殺意でぬりこめられた半生を綴る真偽不明の伝記「地獄の子守唄」は、ある理由で必ず3日間は余韻を引きずる読後感強制トラップが発動。勘弁してください!
大御所の伊藤潤二からは「長い夢」。眠るたび夢のなかで過ごす時間がのび、何万年もの年月を体感した肉体が超進化する入院患者の姿は、SF的な想像力をも刺激する。
さらに、ひよどり祥子(うぐいす祥子)が『フロイトシュテインの双子』、『死人の声をきくがよい』おのおの第1話でグロとかわいさの両立を見せたり、阿部共実『空が灰色だから』や中山昌亮『不安の種+』といった異色オムニバスからは「今読んだものはいったい何だろう?」と読者を疑念に沈みこませる話が収録され、ラインナップのバラエティを豊かにしている。
各作品には見どころレビュー記事がついており、読み返す際の手がかりもバッチリ充実。
かくして、「ホラー」というひとつのテーブルの上でその多様性を感じさせる『この「ホラー」マンガが怖い! 』。
暑くて眠れぬ夜のおともに手にとって、背筋を涼しくしていただきたい。
怖くてもっと眠れなくなるかもしれませんが!
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7