365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
8月8日はちょうちょうの日。本日読むべきマンガは……。
『チョウになる日。』
夢花李 大洋図書 ¥600+税
8月8日、ぞろ目の日には数々の記念日がある。そのなかでもきょうは「ちょうちょうの日」を取りあげたい。
8の字が蝶に似ていること、また蝶の主食が葉っぱ(ハッパ)という語呂合わせから、沖縄の琉球城蝶々園が制定したものだ。
沖縄ではオオゴマダラを始め、珍しく美しい数々の蝶が生息していることでも有名だ。
また蝶は、沖縄最古の歌謡集「おもろさうし」に、魂の化身として登場する。
沖縄だけでなく、ギリシア神話をはじめとした世界各国の神話でも、蝶は同様に魂の象徴とされていて興味深い。
転生の果てに姿が変わってしまったとしても、決して変わらない「魂」そのものを表す生物が蝶なのだ。
今日ご紹介する短編集の表題作『チョウになる日。』は、「うか」と「みかみ(みみ)」という2人の少年の物語だ。
うかは15歳になったばかり。病弱で、大きな手術を控えている。
一方のみかみは、生き物の死期が「聞こえる」という噂があり、「みみ」とあだ名されている。
うかは身体が弱いために壊れ物のように扱われ、自分が傷つくような真実は誰にもいってもらえない。
そんな生活が嫌で、うかは人間嫌いのみかみに心惹かれるのだ。
ぶっきらぼうだが率直に生きている彼なら、うかに対しても心を偽らないと思うから。
自分は誰よりもみかみに嫌われているとうかは思う。
死が近いはずの自分は、きっとみかみに死期を悟られているはず。
先のない人間にみかみが近づくわけがない、そう考えるうかだが――。
この作品はマンガというより、1枚絵のイラストを連ねたかのような高いクオリティで描かれていて、登場人物の表情もポーズも、どの1カットを取ってもひどく印象的だ。
ジャンルでいえばBLに分類され、そういう行為の場面もありはするが、何もかもが美しくて夢のなかのシーンのようにさえ思える。
タイトルの「チョウ」は、マンガのなかのいくつかの場面で飛んでいるほかにも、みかみのタトゥーとして登場する。
そしてそのチョウは、みかみとうかを一生結びつける約束のしるしとなる。
2人は身体よりも心よりも、魂で結ばれた唯一無二の存在となるのだ。
たった15歳の約束だけれど、だからこそ尊く、その時つながれた真実は永遠になる。
作者が繊細な線で描きだすみかみとうかの姿には、読者にそれを信じさせてしまうだけの力がある。
夏に飛ぶ蝶たちは、春の蝶よりも大型で色が濃いものが多い。
暑い盛りに、大きなクロアゲハがふわふわと飛ぶ様は幽玄さすら感じさせる。
そんな夏のさなかであるきょうはぜひ、蝶が飛ぶようにゆっくりと本書のページをめくってほしい。
そこに登場するキャラクターたち1人ひとりに、それぞれの魂のかたちが見えると思うから。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」