日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『オゲハ』
『オゲハ』第1巻
oimo KADOKAWA ¥650+税
(2015年10月10日発売)
両親と暮らす男子中学生・木嶋智(キジ)は、ある夜の公園で人の大きさほどもある卵を見つける。
そのなかには人の顔と胴体に、蝶の羽のような両手、昆虫そのものの下肢をもつ謎の生物が。キジは「すげえ…」とぶつやくとためらいもなく木の枝を突き刺し、“中身”を持ち帰った。
ずるずると容赦なく引きずって家まで持ち帰り、気を失ったそれにペットボトルの中身をぶちまけて叩きおこす。
キジは目だけが笑ってない顔で「アゲハ蝶の汚いやつだからお前の名前はオゲハな」。
空からやってきた謎の生命体の少女と少年の物語という、本来ならジュブナイルでファンタジックな設定に泥水をぶちまけたような不穏な空気は、おそらく好みが分かれる部分だ。
オゲハ自体もいったいなんの目的で地球にやってきたのか、その仲間と思われる大きなイモ虫型生命体はなんなのか謎は多い。
だがもっと謎が多いのはキジのほうだ。オゲハが飢えていても気に留めず、いつも目だけが笑っていない。これだけ謎に満ちた生物を目の前にしても、その扱いはあくまで虫そのもの。
キジはあくまで“普通”の家庭で育ち、受験を控えた中学生。
彼に好意を寄せる同級生もいれば、ノートを貸し借りする友人もいるありふれた生活。
なのに、どうしてこんなにもいびつなのだろう。
第4話でキジがオゲハを連れて家出をするエピソードを読んだ時、これはロードムービーなのだと思った。いや、マンガだから“ロードマンガ”……?
彼らは自分がなぜここにいて、これからどうしたいのか見つけにいく。
だが、現代の中学生のロードムービーは、遠くの土地まで行って大冒険を繰り広げることはない。
必要ないと思えばオゲハを道中で捨て去るし、そうかと思えば戻ってきたり、あっさり家に帰る。
この作品は、淡々と、どこか不穏に進んで行く新感覚の道程の物語。
最初に読んでみて、どう腰をすえて読めばいいのか迷ったら、宇宙や謎の生物のことは頭の片隅へ追いやって、この少年少女がどこへ向かうのかという視点で楽しんでみてほしい。
<文・川俣綾加>
フリーライター、福岡出身。
デザイン・マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブや、「マンガナイト」などで活動中。
著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』(岡田モフリシャス名義)。
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